5年後の未来が見えると言われる、ラスベガスで行われる世界最大の家電見本市CES。開催は2024年1月9-12日 (Media Dayは7, 8日)。実際に足を運んで見て聞いてきた内容から、今後の未来を予想していこうと思います。
CES2024概要
今年のCESも非常に盛り上がりを見せました。CESのHP上では、次にように分類されていますが、展示を見て来た所、ギュッと圧縮して、次のように分類し、それぞれの特徴を解説していきたいと思います。
【CESのHP上のカテゴリ】
【見学を得て分類したカテゴリ】
- 大企業による白物、黒物家電全般
- 車に関する展示全般
- デジタルヘルス
- AI
- XR
- スマートシティ(ホーム)
大企業による白物、黒物家電全般
CESは家電の祭典と過去言われ、新たな製品の発表の場でしたが、その風潮は少しづつ弱まり、近年同様、今年のCESでは日常に使う家電のコンポーネントに焦点を当てる企業は非常に少なかったという印象。様々な機器や技術を繋げるアプリケーションとしての見せ方が多くを占めている。
その中でコンポーネントとしてのイノベーションも残っている製品もあり、その例として、「透明ディスプレイ」の存在が挙げられる。力を入れているのは韓国企業、LGとSamsungで、次のような展示をしていた。
透明ディスプレイ
・LG
有機ELディスプレイパネルに黒い幕を組み合わせて、「発光していない時は透明」になるようにしている。映像を透過させないときは背景の黒幕とセットで使うことで、「透明で存在感の小さなディスプレイ」としての使い方と「通常のテレビ」としての使い方を併存
・Samsung
ガラスの上に小さなLEDを並べた「マイクロLED」で構成する。マイクロLEDを並べたディスプレイを安価に量産するのは大変だが、幕を併用するLG方式よりも構造はシンプルで、薄型のディスプレイが作れる。
車載関連
次に車載関連であるが、数年前の自動運転の熱気に比べると、少し収束してきている印象を受けた。2018年頃訪れた際はCESは車の祭典ではないかと思われるほど車が置かれ、自動運転、空飛ぶ車、AIとの組み合わせをどの会社もアピールしていたが、今年は少し落ち着きを見せていた。
その中でも今年目立っていたのは、次の2点である。
・LiDARやToFを用いた3Dセンシングによる、前方監視フュージョンとインキャビンモニタリング
・生成AIとの組み合わせによる対話型コックピット
3Dセンシング
自動運転向けのセンシングとしてカメラの存在は少し薄れ始め、今年はLiDARがかなり多く展示された。LiDARとは?という方は次の記事を参照頂きたい。
参考:【徹底解説】LiDARとは?自動運転、スマホ、あらゆる場面で今後活躍必至。
3Dセンシングにこだわった展示の代表企業はSONYである。下の写真のようなスケルトンの車を準備し、センサーの搭載場所が分かるように展示。
この屋根に乗っているデバイスが、LiDARである。
このLiDARで生成した、3Dのマップ(DepthMap)をリアルタイムに会場内で表示。カメラとのフュージョンセンシングをアピールしていた。LiDARにはSPAD(Single Photon Avalanche Diode)と言われる受光素子が使われ、入射される1つ1つの光子を数える事で、光の量を計測する次世代のセンサーを活用している。
また、乗員監視向けのドライバーモニタリングでもソニーは3Dセンシングを用いている。3Dセンシングを用いる事で、ドライバーの運転ポジションを測定。危険な視線を即座に伝える事に活用されている。
対話型コックピット
生成AIの普及に伴い、車載への適用も加速している。その代表的な物が「対話型コックピット」である。
メルセデス・ベンツは、米国で開催される「CES 2024」テクノロジー展示イベントにて、システム統合された新しいMBUXバーチャルアシスタントを発表。
先進的なソフトウェアと生成AIを組み合わせ、より自然で直感的なクルマとの関係を構築し、生活をより快適にするプロアクティブなサポートが実現。友達とするようなラフな会話からオーナーの会話を学習し、積極的な提案やルーティンを提供。
メルセデスベンツ以外にも、同様コンセプトをSonyやTomTom等も提案。
・メルセデスベンツのコックピット
・ソニーホンダ、AFEELAのコックピット
デジタルヘルス
CES2024年の目立った技術の1つとしてデジタルヘルスがあげられる。これはコロナの影響により、家庭で健康状態を把握したい。という需要や、健康コストの削減といった需要が増えたためという事が、基調講演においても報告されている。
展示は下記2点の展示が目立った。
スマホのカメラも用いた健康状態の把握。
スマートウォッチやリング等による心拍測定による健康状態の把握。
代表例として、NEC、資生堂、ロレアルを解説する。
NECのFace & Facial Parts Monitoring System
NECは、世界No.1の精度を誇る顔認証技術を活用し、スマートフォンのカメラ等でバイタルや精神状態の微細な変化を分析することが可能なソリューション「Face & Facial Parts Monitoring System」が、「CES 2024 Innovation Awards」を受賞。
スマートフォンのインカメラで自身の顔を10~60秒程度撮影するだけで分析することが可能。本製品は利用者が行う日々のウェルネス管理・リスク管理を「自身で簡単に」行うことを目的としたものである。
資生堂のBeauty AR Navigation
「Beauty AR Navigation」は、スマートフォンやタブレット端末などを用いて画面にご自身の顔を投影し、AR 技
術 を用いて肌のマッサージ方法などを習得するアプリ。
例えば、美容効果を高めるマッサージ手順を、スマートフォンなどでナビゲート。
また、スマートフォンから、顔(鼻の骨格など)の画像を分析することで、将来的に表れやすい、しわやたるみなどの肌悩みと肌内部の状態を予測できるツールを提供。これらは肌悩みが現れる前に予防ケアを提案。その人に適したマッサージ法や身体の内側からのケアなど、よりパーソナライズされたサービスを提供。
ロレアルのBeauty Genius
そして外せないのが、「仏ロレアル」の基調講演である。美容メーカーが、CESの基調講演として登場するのは初めて。
ロレアルが提案している、「Beauty Genius」とは、ユーザーの肌の写真などの入力情報をもとに、個別のスキンケア診断を行い、最適な製品をお勧めしてくれるというもの。さらに、メイクアップのアドバイスを行い、自宅で美容プロの支援を得ることができる。AIとデジタル技術を駆使することで、消費者の美容ルーチンをパーソナルな形で提案してくれるだけでなく購入前にバーチャルで商品を試すことも可能。
生成AIの出現と、各センシングデバイス(特にスマホ)の機能の進化と入手しやすさから、このような非テック企業が様々なアイデアで新たなムーブメントを起こしている。
数年前の「自動車xAI」のイノベーションのように、「健康xAI」のイノベーションも起きつつあるのではないだろうか。
XR
XR関連は予想通りと言えばそうであるが、CES2024では、ゴーグル、ARグラスの展示が非常に多かった。日本企業ではCanonが3D一色の展示を実施。車載の部分で説明したように、センシングも3Dが目立ち、モニターも3Dの展示が出始めている。メタバースとの組み合わせで、今後近い未来は3D技術の進化からますます目が離せなくなるだろう。
今まで非常に大きかったゴーグルはCanonのこれ↓のように小型化してく事を示唆される。
また3Dのイノベーションはデバイスだけに留まらない。
Canonが魅せた、ボリュメトリックビデオ
ついにボリュメトリックもここまで来たかと言わんばかりの内容。
バスケットボールのコートに設置した100台以上の4Kカメラによって同時に撮影。すべての画像から空間全体を3Dデータ化。スマホの画面で自由に角度を変えて好きな選手のプレイを間近で見るほか、MR/VRヘッドマウントディスプレイを使ってコートの中に入り込んで試合を観戦する迫力の体験が得らる。
今年のCESでは、制作者が設定した自由視点の映像をユーザーが楽しむこれまでの技術を進化させ、個々のユーザーがスマートフォンやタブレット端末を操作して自由に角度を変え、好きな選手のプレイを間近で見られるという新しい技術展示。
映像にはまだ荒さが残っているが、カメラの技術進化により、現実との違いが分からなくなるレベルになるのもそう遠くないと思われる。
ARグラス
CES2024では様々なメーカが通常のメガネと同等サイズのARグラスを発表。こちらも技術進化のスピードの速さを実感するものがあった。
下の図は既知かもしれないが、レイバン・メタのARグラス。通常のメガネとほぼ同等サイズの中にカメラが埋め込まれ、撮影、またブルートゥース接続で、スマホからの音楽も楽しむ事が可能。
XREALの製品の場合は、ARグラス本体に画面を表示する機能はなく、スマホやPCから入力した映像を表示できる。いわば、「メガネのようにかけて使う、外付けディスプレイ」といえる↓
スマートホーム(AIロボット)
最後にピックアップしたいのは、スマートホームの分野である。今までのスマートホームと言えば、IoTを活用し、家電を接続、スマホで操作、というのが一般的であったが、今回のCESでは、AIロボットが家電操作をしたり、ビデオ通話の入り口になるという、まさに「ロボットのいる生活」が展示されていた。
これらAIロボットを大々的にプレゼンをしていたのは、LG、Samusung、Amazonである。
基本的に3社ともコンセプトは似ている。
車輪で自走するロボットで、対話型で利用者の指示を受ける。人工知能(AI)を搭載し、「寒い」と伝えれば暖房を付ける、「おやすみ」と伝えれば照明をコントロールするなど、家電を操作。プロジェクター機能もあり、映像投影。
ロボットのいる暮らしをするのも近い未来なのかもしれない。
Samsung:「Ballie」
LG:「Q9」
Amazon
まとめ
今年のCESは、技術の主役は何といってもAIだろう。
・家電xAIによるスマートホーム
・ロボットxAIによるAIロボット
・自動車xAIによる対話型コックピット、ADADAS分野の進化
・健康xAIによる、デジタルヘルス
と、どの分野をとってもAIは切り離せない。
その中で、今年を特徴づける分野は、やはりデジタルヘルスであると言える。
ロレアルの初の基調講演は、大きく時代が動く可能性を示唆しているように感じる。AIや、スマホを主軸にした各種技術の低コスト化と汎用化に加え、コロナという大きな時代の変化と共に、健康に関する関心が高まった事が上手く融合した事が背景ではないだろうか。
今後もこういった非テック企業などの、汎用化された技術を活用したビジネス展開が活発化していく事が予想され、その中で特長を持たない企業は淘汰され、うまく時代を読む企業が成功を掴む、誰もがそのチャンスと可能性を持てる時代にあったのであると、今年のCESは感じさせる物であった。
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