車の衝突被害軽減ブレーキ。何故事故は起こるのか?仕組みと規格の謎

車の衝突被害軽減ブレーキ。何故事故は起こるのか?仕組みと規格の闇

近年、車の安全技術が進化してきています。その中でも最も有名な機能の1つとて、衝突被害軽減ブレーキと言われている機能を、本記事では紹介しようと思います。本機能はよく、自動ブレーキ機能と言われ、衝突前に止まる機能として知られていますが、万能な機能ではありません。というか多くの場合止まれません。

えっ、そうなの?

と思われる方も多いと思いますが、その機能を過信した事故も多く発生している事も事実です。本記事では、衝突被害軽減ブレーキについて仕組みから理解し、なぜ万全じゃないかを正しく理解した上で、結果、事故が減らせたらと、微力ながら思っています。

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ADASレベル2車両の衝突事故事例

下のグラフは、ADASレベル2の車両が2021年7月~2022年5月までに報告された衝突事故の件数です。ADASレベル2とは?に関しては下記の記事を参照頂ければと思いますが、レベル2の自動運転車と言われている車は、ただの「運転アシスト」の機能が備わっているだけであり、車が自動的に、「走る、曲がる、止まる」をするわけではありません。よって、それを知らずに車に制御を任せておくと、事故は発生します。

よく、テスラの動画で、運転席に人が座っていなかったり、寝ていたりしている動画があると思いますが、その乗り方では、事故は必ず発生します。その乗り方で事故を起こした時、責任は運転者であり、車ではありません。

それがレベル2の自動運転であり、現在(2022年8月)の自動運転車両は一部を除き、ほとんどがレベル2となります。(一部レベル3の車両も出始めております。)

参考:自動運転に必要な車載カメラモジュールの5つ役割【自動運転には必須】

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なぜ事故は起こるのか

それでは、なぜ、事故が発生してしまうのか?という疑問に、ここでは、基準の面と仕組みの面で回答していきたいと思います。

衝突被害軽減ブレーキの認定基準

まず、現在の衝突被害軽減ブレーキの認定基準を紹介します。各車両メーカのHPにも小さく記載されていますが、国土交通省では、次の3点が基準となっています。(国によって若干の差はありますが、大きくは変わりません)

1.静止している前方車両に対して50km/hで接近した際に、衝突被害軽減ブレーキによる制動制御により、衝突しない又は衝突時の速度が20km/h以下となること。

2.20km/hで同一方向に走行する前方車両に対して50km/hで接近した際に、衝突被害軽減ブレーキによる制動制御により、衝突しないこと。

3.「1」及び「2」の衝突被害軽減ブレーキによる制動制御の少なくとも0.8秒前までに、衝突のおそれがある前方車両の存在を運転者に知らせるための警報が作動すること

この基準で言いたい事は、次の点です。

  • 衝突被害軽減ブレーキは50km/h以内のスピードにおいて規定されている。つまりそれ以上の速度では規定なし。
  • 基準は「衝突しない事」ではなく、「衝突しない」または「衝突時の速度が20km」以下である事である為、低速ではぶつかる事も許容した基準になっている
  • 警告音を鳴らし、最後は運転手へ操作を委ねている。つまり、運転手が常にブレーキをかけれる状態である必要がある。

要するに、運転手が常にブレーキがかけれる状態にいる中、町中の低速運転時の時の衝突被害を軽減する。というのが、本機能です。それ以上のスピードでは、止まれません。それを知らずに、いつでもこの機能が守ってくれると過信すると、残念ながら事故につながってしまいます。

センサ―による安全機能

次は各センサーの機能から、衝突被害軽減ブレーキが万能ではない事を説明したいと思います。本、衝突被害軽減ブレーキの機能を実現させるために使われている技術次の通りとなります。

■カメラ

画像認識を使って、人が目で見るのと同じように物体の形状を判定します。

弱点:物体との距離が分からない(弱点を補う為、ステレオタイプの物もある)。悪天候時(雨、霧、直射日光)では正しく認識できない場合がある。

■赤外線レーザー

赤外線を照射し、反射して帰ってきた光との位相差、時間差などから距離の計測をする。

弱点:赤外線のレーザー反射波を測定する為、長距離に弱く、範囲が狭い。太陽光などの外光が強い環境に弱い

■ミリ波レーダー

電波を照射し、その反射波を測定する事で広範囲の距離を測定する。天候の影響を受けにくい

弱点:物体形状が正しく計測出来ない

■ソナー

超音波で短距離の障害物を検知。透明なガラスも検知出来る為、ペダル踏み間違い防止のセンサとして使用される。

弱点:短距離しか測定できない。

これらの製品で言える事は、どのセンサーも一長一短であり、完璧な物は存在しない。という点です。これらのセンサの精度を上げたり、組み合わせたりと工夫を凝らしていますが、絶対安全なセンサというものはまだ世の中に無く、残念ながら、センサの誤検知による事故も過去発生してしまっております。安全を担保する為にASILという規格もあり、これにより故障検知はできるようにはなっておりますが、どんな環境でも安全を担保しながら動作できる状態にはなっておりません。

ASILに関しては下記の記事を参照お願いいたします。

参考:難解な規格、自動車の機能安全、ISO26262、ASILを超簡単に解説します

このように、「基準」の面「センサー性能の面」どちらから見ても、不十分であり、現時点(2022年9月時点)では、本機能を過信しすぎると、残念ながら事故は起きてしまいます。

各車両メーカの安全機能

このようにまだまだ不完全な技術ですが、もちろん、特定の条件においては身を守ってくれるものですので、あった方がよい技術ですし、今後も進化が期待できる技術です。ここでは、各車両メーカの特徴をまとめたいと思います。

【トヨタ】Toyota Safety Sense

名称プリクラッシュセーフティ
使用センサー単眼カメラ+ミリ波レーダー
検知可能対象・環境自転車運転者(昼夜)歩行者(昼夜)自転車・自動二輪車(昼)
作動速度帯車・自動二輪車:5km/h〜 歩行者:5〜80km/h

【ダイハツ】スマートアシスト

名称衝突回避支援ブレーキ機能
使用センサーステレオカメラ
検知可能対象・環境車(昼夜)歩行者(昼夜)
作動速度帯車・自動二輪車:4〜80km/h 歩行者:4〜50km/h

トヨタとダイハツに関しては下記の記事で詳しく説明しておりますので、よろしければどうぞ。

参考:トヨタセーフティセンスとスマートアシストの違いを分かりやすく解説

【スバル】EyeSight

名称プリクラッシュブレーキ
使用センサーステレオカメラ
検知可能対象・環境車(昼夜)歩行者(昼夜)自動二輪車※ブレーキランプ
作動速度帯車・歩行者:1〜160km/h

【マツダ】i-ACTIVSENSE

名称アドバンスドSCBS
使用センサー単眼カメラ+レーダー
検知可能対象・環境車(昼夜)歩行者(昼夜)
作動速度帯車:4〜80km/h 歩行者:10〜80lkm/h

【ホンダ】Honda SENSING

名称衝突軽減ブレーキ(CMBS)
使用センサー単眼カメラ+レーダー
検知可能対象・環境車(昼夜)歩行者(昼夜)自転車(昼)
作動速度帯車・歩行者:5〜100km/h

ホンダに関しては下記の記事で解説しておりますので、よろしければどうぞ。

参考:【ホンダ N-WGN】ホンダセンシングの機能一覧と実車レビュー、欠点の紹介

【日産】インテリジェント エマージェンシーブレーキ

名称インテリジェント エマージェンシーブレーキ
使用センサー単眼カメラ+レーダー
検知可能対象・環境車(昼夜)歩行者(昼)
作動速度帯車:10〜80km/h 歩行者:10〜60km/h未満

【スズキ】Safety Sport

名称デュアルカメラブレーキサポート
使用センサーステレオカメラ
検知可能対象・環境車(昼夜)歩行者(昼夜)
作動作速度帯車:5〜100km/h 歩行者:5〜60km/h未満
名称デュアルセンサーブレーキサポート
使用センサー単眼カメラ+赤外線レーザー
検知可能対象・環境車(昼夜)歩行者(昼夜)
作動速度帯車:5〜100km/h 歩行者:5〜60km/h未満

【三菱】e-Assist

名称衝突被害軽減ブレーキシステム(FCM)
使用センサー単眼カメラ+赤外線レーザー
検知可能対象・環境車(昼夜)歩行者(昼夜)
作動速度帯車:5〜80km/h 歩行者:5〜65km/h未満

NCAPの安全基準

交通事故を低減する為、これまで説明してきた「衝突被害軽減ブレーキ」を含め多くの安全技術が開発されています。また、様々な基準ができ始めており、より安全な社会を目指す動きもありますので、最後にそれらを解説したいと思います。

下記はNCAPで規定されている内容です。良く車の背面の★のマークがある車を見た事があると思いますが、各車両メーカはこれらの★を獲得する為、これらを満足する製品をつくっております。

  1. 車両、二輪車、歩行者に対する、追突防止、物体接近警告
  2. 出会いがしら事故への対応
  3. 右左折時の巻き込み防止対応
  4. 右左折時の追突防止
  5. ドアを開けた時の衝突防止
  6. 急発進(誤踏み)の抑制
  7. 車両周辺の障害物検知
  8. 後退時の障害物検知
  9. ドライバ異常時の路肩退避
  10. リモート駐車
  11. インフラと連携した、見通しの悪い交差点での衝突防止

まとめ

今時点では、まだまだ技術も基準も未完成で、絶対安全とは言えない技術ですが、交通事故の削減は全世界の方が求めている事であり、ルールも技術もどんどんと進化していっています。このNCAPで定義された内容がすべて完璧に満足できる車が出来れば、本当に交通事故が無くなるかもしれません。

参考:自動運転車のレベルと、活用されるセンサ技術4種、課題も含め紹介。

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