今となってはAmazonという企業を知らない方は非常に少ないと思いますが、ご存知の通りここ数年で様々な事業を手掛け、莫大な成功を収めています。本記事では、Amazonの強さの根源である、リーダーシッププリンシプルに関しての紹介と、日本の物作り企業の働き方とのギャップを考察をしていきたいと思います。
※本考察は複数の物作り企業を渡り歩いた実経験に基づき考察していますが、個人的な考察を含みますので、ノークレームでお願いいたします。また、ものづくり関連企業とのギャップ考察であり、IT等、その他の日本企業の事では異なると思いますので、そういった観点でご覧ください。
Amazonのリーダーシップ・プリンシプル
驚異的なAmazonの成長の陰には、全部で14の項目からなる独自のリーダーシップ理論があり、それは、「Our Leadership Principles」、略してOLPと呼ばれています。(2021年に2条追加されたみたいですが、本記事では割愛します。)
Amazonは、チームを持つマネージャーであるかどうかにかかわらず、全員がリーダーであるという考え方を持っているようで、すべての活動において、このOLPに従って行動する事を心掛けているとの事です。
それでは、OLPをみていきましょう。
Customer Obsession
リーダーはまずお客様を起点に考え、お客様のニーズに基づき行動します。お客様から信頼を得て、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合にも注意は払いますが、何よりもお客様を中心に考えることにこだわります。
Amazon HPより
この事から、なによりも優先すべきはお客様である。という考え方がうかがえます。よくビジネスの世界では「3C」といって、自社(Company)、他社(Conpetiter)、顧客(Customer)から戦略を考えると言われますが、この条文から、この中で顧客を第一優先に考えているという事が分かります。
「地球上で最もお客様を大切にする企業」を目指すAmazonならではのOLPだと思います。
■ものづくりエンジニア視点での考察
これは日本人の精神とも近いので理解しやすいかなという印象を受けました。日本ほどお客様ファーストな国はないのではというくらい、お客様に親切ですし、物作りの現場は常にお客様がいての、設計、製造現場があるので、多くのエンジニアが備えている精神だと思います。
Ownership
リーダーはオーナーです。リーダーは長期的視点で考え、短期的な結果のために、長期的な価値を犠牲にしません。リーダーは自分のチームだけでなく、会社全体のために行動します。リーダーは「それは私の仕事ではありません」とは決して口にしません。
Amazon HPより
根本的には、すべての社員がリーダーであるとの考え方に基づいていると思います。あらゆる問題と課題を「自分ごと」として強い当事者意識で解決に取り組むという姿勢が重要である。という事ですね。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
長期目線で物事をとらえ、短期的な利益ではなく、長期的な利益を求める。考え方は、七つの習慣の第三の習慣に近いのかなとの印象もあります。
- 重要かつ緊急
- 重要だが緊急ではない
- 重要ではないが緊急
- 重要ではなく、緊急でもない
これらたタスクの中では、「2」を最も重要視するという物が第三の習慣ですが、OLPの中の、長期目線で考えるという意味でこの原則と考え方が似ている感じですね。
参考:【7つの習慣】ものづくりエンジニア視点で分かりやすく解説します。
私も数社転職で企業を渡り歩いていますが、7つの習慣はどの企業でも学びますので、本OLPの内容もある程度は理解できると思いますが、実際はなかなか長期目線を優先させ、短期目線の結果を犠牲にする事は、日本企業では許されない場合が多いのかなとも思いました。それだけ日本企業は目先の事で一杯であり、余裕がないという事なのだろうか。
また、日本企業の悪い習慣として、「言ったもん負け」という文化があると思います。アイデアを出したり、問題定義すると、言った人のタスクになってしまう為、言い出さない。「私の仕事ではありません」とした方が楽で、かつ給料は変わらない。そこがこの条文とのギャップだと思います。Amazon社員が本当に、「自分の仕事でない」とし、あらゆる問題に各人が取り組んでいるのであれば、どのように実現しているのか、見てみたい所です。仕事をすればするほど高給になるような仕組みがあるのだろうか? もしそうだとすると、そこに日本企業とのギャップが生まれる事には納得です。
Invent and Simplify
リーダーはチームにイノベーション(革新)とインベンション(創造)を求め、同時に常にシンプルな方法を模索します。リーダーは状況の変化に注意を払い、あらゆる場から新しいアイデアを探しだします。それは、自分たちが生み出したものだけに限りません。私たちは新しいアイデアを実行に移す時、長期間にわたり外部に誤解される可能性があることも受け入れます。
Amazon HP
常により良い方法を探し続けなさい。という事ですね。また、そのアイデアはよりシンプルで実践しやすい物。それを探し続ける事を推奨するOLPです。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
日本のものづくり企業の悪い所は、「実績有」を良しとする文化をもつ会社が多い所かなと思いました。もちろんそうではない会社もありますが、古い会社、安全部品を取り扱う会社は、新しい物に挑戦する事に対し、極度に恐れる風潮を感じます。これが、日本でイノベーションが起きない原因になっているのだと思いますが、多分これは、日本の雇用文化の問題だと思っています。
日本は終身雇用の時代は終わったと言われながらも、実態は今でも終身雇用の文化であり、波風立てず一従業員として過ごす事が安定であるという考え方が根付いており、1つ上の条文で記載した通り、「言ったもん負け」文化を持つ会社が多い。上司の意見に従い、従順である事が良しとされ、指示を受けた仕事を淡々と波風立てずにこなす事が、長期間会社にいられる1つの方法として確立してしまっている。条文にあるように、長期間にわたり外部に誤解されるような事をしていたら、腫物扱いされ、プロジェクトから出される事もあり、皆と同じ考えを持つことが正とされるという文化は根強く残っている会社も多いと思います。
逆にアメリカは転職する事が普通であり、転職回数が少ない人間の方が無能という扱いとなる。成果を上げ、次のステップ(次の会社)へ進む。という文化の為、上司の意見はあまり関係なく、何が正しいのかをはっきり主張でき、成果を出す方法を自ら考え実行し、力を付けたらすぐ転職という文化である為、このギャップがイノベーションの量の違いとして出ているのだろうと思います。
Are Right, A Lot
リーダーは多くの場合、正しい判断を行います。 優れた判断力と、経験に裏打ちされた直感を備えています。 リーダーは多様な考え方を追求し、自らの考えを反証することもいといません。
Amazon HP
これは「経験を積むほど、良い判断ができるようなる」ということを表していると同時に、例え経験を積んだとしても、多様性を持ち、他の意見が正しいと感じたら、自分の意見を素直に変更できる事が正しいリーダーの姿であるという事だと思います。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
経験を積むほど良い判断が出来る。という点に関しては日本企業でも同じですね。後半は解釈が少し難しいですが、他人の意見を聞く。というのは日本企業は得意な部分の1つではないかと思います。日本は基本0→1の開発ではなく、1を膨らます事が得意なので、ある決められた範疇においては、この条文はモノづくりの分野にも当てはまるかなと思います。
ただ、多様性の面では、中々違う意見をすんなり受け入れられるリーダーは日本には少ない気はします。過去の実績、決められたルールに基づき、その範疇において、判断をしていくというのが日本企業のリーダの実際の姿であり、反証意見がこの概念に入っている場合は、意見を変える事が出来る方は多いのではと思いますが、逆にイノベーティブな反証意見(過去の事例が無い意見)に関しては拒否反応を示す場合が多いのではないでしょうか。
Learn and Be Curious
リーダーは常に学び、自分自身を向上させ続けます。新たな可能性に好奇心を持ち、探求します。
Amazon HP
「新しいことを学び、成長し続けなさい」という意味のシンプルなOLPですね。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
これは、どの社会でも同一ですね。成長や向上の気持ちがなくなったら終わりだと思いますが、他の国に比べ、日本はこれを強く意識している社員は少ないと思います。いくら学び成果を出しても、インドやアメリカのように、人生が変わるほどの変化は起きないのと、成長の差が給料の差に結びつかない部分がモチベーションを妨げる要因になっていると思います。
Hire and Develop the Best
リーダーはすべての採用や昇進における、評価の基準を引き上げます。優れた才能を持つ人材を見極め、組織全体のために積極的に活用します。リーダー自身が他のリーダーを育成し、コーチングに真剣に取り組みます。私たちはすべての社員がさらに成長するための新しいメカニズムを創り出します。
Amazon HP
能力のある人材を雇用し、教育を行う事によって、組織のために次のリーダーを育成することも、リーダーの重要な役割である。という内容ですね。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
これは日本企業は苦手ではないでしょうか?会社としては、教育制度や、メンター制度のような取り組みは実施していると思いますが、古くから日本企業に根付いている「出世競争」の概念が未だに根付いている企業も少なくないと思います。
評価の基準として、上司から見た個の成果ではなく、周りから見た、個の成果。もしくはチームの成果を評価点とするような取り組みをしない限り、変わらないと思います。
Insist on the Highest Standards
リーダーは常に高い水準を追求することにこだわります。多くの人にとり、この水準は高すぎると感じられるかもしれません。リーダーは継続的に求める水準を引き上げ、チームがより品質の高い商品やサービス、プロセスを実現できるように推進します。リーダーは水準を満たさないものは実行せず、問題が起こった際は確実に解決し、再び同じ問題が起きないように改善策を講じます。
Amazon HP
商品やサービスにおいて、最高の水準を追求し、問題を迅速かつ確実に解決し、少しでも良くない点が放っておかれることがないようにすること。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
これは多くのエンジニアなら当てはまるのではないでしょうか?自分の設計した物にはこだわりを持ち、改善を継続する。問題に対しては、分析をし、二度と発生させないような仕組みづくりを実施。日本の得意な部分だと思います。
Think Big
狭い視野で思考すると、大きな結果を得ることはできません。リーダーは大胆な方針と方向性を示すことによって成果を出します。リーダーはお客様のために従来と異なる新しい視点を持ち、あらゆる可能性を模索します。
Amazon HP
リーダは常に広い視野で物事をとらえましょう。という内容ですね。顧客の課題に対しありとあらゆるアプローチで顧客満足を得、将来的な利益の可能性を追求する姿勢が大事である。という内容だと思います。結局はCustomer Obsessionにつながる内容かなという印象です。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
大胆は方針という所は少し引っかかりますが、顧客目線で考え、顧客価値を高める為、広い視野で様々なアプローチで対応する。という点はものづくりの現場でもそうですね。
Bias for Action
ビジネスではスピードが重要です。多くの意思決定や行動はやり直すことができるため、大がかりな検討を必要としません。計算した上でリスクを取ることに価値があります
Amazon HP
スピーディな意思決定が重要であり、分析や検討に時間をかける前に、ある程度のリスクは許容し、行動に写すといったスピード感が重要という内容。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
これは日本企業では苦手な部分だと思います。設計を進めて商品化する中では、様々なゲートがあり、そのゲートを各種データをそろえて望まないと、次のプロセスに進む事が出来ない。というルールはモノづくり系の設計現場では「あるある」です。データが無い、証拠がない、ではパス出来なく、また、設計の正当性を証明する為の評価が最も時間がかかるのが現状。
製品開発ではなく、もっと狭い意味では、スピード重心で物事を動かすという事はあるかと思いますが、製品開発という場面においては、リスクを受け入れ次のステップを進むというのは、少なくとも日本のものづくり業界ではないと思います。
参考:ものづくりエンジニアの仕事内容と製品が出来るまでのプロセスを公開します
Frugality
私たちはより少ないリソースでより多くのことを実現します。倹約の精神は創意工夫、自立心、発明を育む源になります。スタッフの人数、予算、固定費は多ければよいというものではありません。
Amazon HP
少ないリソースの中で、創意工夫で効率化をしなさいという条文です。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
Amazonがこのような精神を持っている事に驚きました。日本企業では「あるある」で、ブラック企業になればなるほど、効率化、創意工夫という言葉を武器に固定費を削減する会社が多いと思います。ちょっとこの条文は、本当の真意が分かりませんが、ブラック具合を疑わざるを得ない文章で、怖いですね。
Earn Trust
リーダーは注意深く耳を傾け、率直に話し、相手に対し敬意をもって接します。たとえ気まずい思いをすることがあっても間違いは素直に認め、自分やチームの間違いを正当化しません。リーダーは常に自らを最高水準と比較し、評価します。
Amazon HP
信頼できるリーダーは、メンバーと真摯に会話し、どんな場面でも誠実に対応する。という内容。
自分の非を素直に認め、最高の水準を目指して切磋琢磨するリーダーこそ、自分と周囲の価値を最大限に高めることができるという内容。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
最近は日本企業でも、「聞く力」を重要視する企業が増えて来たと思います。一昔前は自分が法律かのような上司が目立っていましたが、ボトムアップ出来る企業も増えて来て、中には1on1みたいに、部下との1対1の議論を行っている企業も少なくないのではないでしょうか。
この条文は日本企業にも当てはまりつつあるのではと思います。
Dive Deep
リーダーは常にすべての業務に気を配り、詳細な点についても把握します。頻繁に現状を確認し、指標と個別の事例が合致していないときには疑問を呈します。リーダーが関わるに値しない業務はありません。
Amazon HP
誰よりも深く業務に没頭し、詳細まで抜かりなく確認していくのが、真のリーダーの責任である。という事ですね。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
日本企業でもリーダクラスはこういった感覚を持っていると思います。全体を管理するという責任をもつ役割になると同時に細部まで見るようになると思いますが、Amazonとの違いとして、日本はこの立ち位置になるのは、やはりある程度出世した後になるという所が、Amazonとのギャップかと思います。
担当のクラスのメンバは当然全体は俯瞰しない(できない)場合が多い為、リーダがその部分を見る(管理する)必要があり、役割が上がれば上がるほど、見る範囲が増えると同時に、そのチーム間のはざまは、リーダ以外意識されない為、潜在的問題がそこに含んでいる場合が多い。
逆に言うと、Amazonのように、全社員がこの概念を持ち、業務全体に気を配る事は、若い頃から実践しておけば、全体最適を、チーム全体が考えるようになり、不具合も減るのだと思います。
これは是非見習った方が良い条文ですね。
Have Backbone; Disagree and Commit
リーダーは同意できない場合には、敬意をもって異議を唱えなければなりません。たとえそうすることが面倒で労力を要することであっても、例外はありません。リーダーは、信念を持ち、容易にあきらめません。安易に妥協して馴れ合うことはしません。しかし、いざ決定がなされたら、全面的にコミットして取り組みます。
Amazon HP
合意できない場合は「No」と言う。決定事項には全力で取り組む。という内容。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
気になる点があっても、反対意見を真っ向からぶつけるのは、日本人には難しいかもしれません。これも海外文化との大きな違いかなと思います。
船から飛び降りる時、「みんな飛び込んでいるぞ」というと自分の飛び込むのが日本人。「飛び込めばヒーローになれますよ」というと飛び込むのがアメリカ人。反対意見を出さない文化が日本にはあります。ものづくりの社会でイノベーションを起こそうと思ったら、この文化のままでは難しいとは思いますが、残念ながら、この文化は根強く残っていると思います。
Deliver Results
リーダーはビジネス上の重要なインプットにフォーカスし、適正な品質で迅速に実行します。たとえ困難なことがあっても、立ち向かい、決して妥協しません。
Amazon HP
どんな困難にも立ち向かい、品質に妥協せず、できる限り迅速に問題に対処するという内容です。
【ものづくりエンジニア視点での考察】
これは日本の物づくり企業の得意分野ですね。品質第一。その為にはどんな困難にも立ち向かう。まさに、日本の物作りの源泉です。
まとめ(Amazon OLPと日本ものづくり企業のギャップ)
AmazonのOLPの解説と、日本の物作り企業とのギャップを解説してきました。まとめると次のようになるのかなと感じました。
顧客志向、品質にこだわりを持ち、少ないリソースで成果を出す。という面は日本のものづくり企業と合致していると思いますが、
長期目線を視野に入れ、会社全体の為に常に行動、スピード重視で新たなアイデアに挑戦する。という面は会社にもよると思いますが、日本の物作り企業の進め方とは少しギャップがあるように思います。
■日本のものづくり企業とギャップ無のOLP
- Customer Obsession
- Are Right, A Lot
- Learn and Be Curious
- Insist on the Highest Standards
- Think Big
- Frugality
- Earn Trust
- Dive Deep
- Deliver Results
■日本のものづくり企業とギャップ有のOLP
- Ownership
- Invent and Simplify
- Hire and Develop the Best
- Bias for Action
- Have Backbone; Disagree and Commit
Amazonに関しては様々な書籍も出ていますので、ご参考までに掲示しておきます。
もし転職に興味がある方は下記の記事も参考に頂けたらと思います。
エンジニアを目指されている方、下記も参考にどうぞ。
参考:収入アップの為の、おすすめプログラミングスクール3社を紹介します
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