EMC技術とは、自分から出す電磁妨害を抑え、妨害を受ける側も自分で自分を守り、相互に共存、共栄をする為に必要な技術であり、その為には、約束事を決め、守る技術です。
ものづくりエンジニアの永遠の課題。EMC(ElectroMagnetic Compatibility)= 電磁両立性
EMCと聞くだけで逃げ出したくなるエンジニアの方も多いと思います。そんなエンジニアの方向けに、本記事では、EMCとは?EMC設計技術とは?を説明していきたいと思います。
1つの記事では書ききれませんので、まずは概要という事で記載させて頂き、要望があれば、もっと深く触れて行こうと思います。
EMCの種類
まずはじめに、EMCの種類を説明します。よくエミッションとかイミュニティとか言われている物です。これらのルールを守って設計する事で、電子機器があふれている世の中で、お互いに干渉しあわず、正常に動作する事が可能となります。
- EMI(Electromagnetic Interference)
- 電磁妨害 通称:エミッション
- 放出する方と覚えましょう。電子機器から発生する電磁波が他の機器に影響を与えない様、所定レベル以下にしなければいけません。その放出ノイズを抑える事をEMI対策、エミッション対策と呼びます
- EMS(Electromagnetic Susceptibility)
- 電磁感受性 通称:イミュニティ
- 受ける側と覚えましょう。他の電子機器から発せられる電磁波によって妨害を受けたとしても、影響を限定的にとどめ、正常動作する事が必要です。このノイズに対して耐性を持つことを、EMI対策、イミュニティ対策と呼びます。
絶対に覚えておくべき2つの法則
EMCの対策をしていて、ハマった経験はお持ちではないでしょうか?ありますよね。多分電気関係のエンジニアであれば必ずあると思います。そこで、釈迦に説法ですが、エンジニアの方であれば必ず覚えておいた方が良い、分散の法則があります。これは通称、無限地獄の法則とも呼ばれています。
- 第一の法則(同相/同レベルの法則)
- 同相/同レベルのノイズが放射している製品があるとすると、例えば10か所に等分、同相で分散しているノイズの場合、1か所の対策では、0.45dBしか改善できず、2か所で1.0dB、3箇所で1.6dBであり、6dB改善するのに8個所以上の対策が必要となります。つまり直しても直しても改善に結びつかず、無限地獄に陥る法則です。
- 第二の法則(逆相の法則)
- 対策すると逆に妨害が増大する
- 位相のわずかな変化が不安定な状態を生み、測定の度に値が異なったり、ノイズに揺らぎが発生する
原理はここでは説明しませんが、1,2とも経験あるのではないでしょうか?実際には1,2が試作機の中には混在する場合が多く、こうなってからでは対策は非常に困難です。
このような無限地獄にならないように、EMCというのは、作ってから対策するのではなく、原因を作りこまない為の予防策を必ず考えて設計する必要があります。
EMI設計の3つの考え方
それでは少しだけ具体的にEMC設計をする為にはどのように考え方で設計する必要があるのかを説明していきたいと思います。
中でも特にエンジニアが苦労するEMIに関する内容をピックアップしたいと思います。
EMI設計の考え方として3つの壁があります。イメージとしては、ノイズの発生源があり、1つ目の壁、2つ目の壁、3つ目の壁でガードし、3つ目の壁を越えた後のノイズの規格マージンが6dB以上ある事を目指す必要があります。6dBマージンというのは良く耳にする数字ですね。
それぞれの壁とは、ノイズを防ぐ為の方策の事を指しており、ノイズ発生源とそれぞれの壁のイメージは次の通りとなります。
EMI対策をするには、この発生源のノイズをそもそも抑える事と、3種の方策により、それを外に出さないようにする対策が必要です。
- ノイズ発生源
- 発振器(クロック)
- A/Dコンバータ
- D/Dコンバータ
- IC電源 等
- 第一の壁(基板内対策)
- クロックのドライブ能力/波形調整
- 回路の基板への配置位置
- 信号/GNDパターン
- 電源フィルタ
- 信号フィルタ
- 配線のGNDシールド
- 第二の壁(基板間I/F、IO)
- 転送方式(コモンモード等)
- 信号/GNDのコネクタ周りの配線、インピーダンス
- 信号線へのフィルタ
- コネクタでのGND配置、シールド
- 第三の壁(機器間I/F)
- 機器間電源、信号ケーブル構造
- コモンモードフィルタ
- 筐体のシールド
これだけの内容を事前に考えて、設計をしていく事で、ノイズを事前に抑制する事が可能となります。それでは、次のトピックでもう少し具体的な対策方法をご紹介したいと思います。
EMC対応設計の概要
EMCを対策する為には、上記トピックで記載した3つの壁を作る為に、多くの内容を設計時に盛り込む必要があります。このトピックでは、少しだけ具体的にそれぞれの対策方法を種別毎に記載したいと思います。
ノイズ発生源への対策
まずはノイズ源そのものへの対策です。
- CLK回路、半導体、デジタル伝送
- 動作パワーを出来るだけ下げる
- 必要以上に動作スピードを上げない
- 立ち上がり波形を緩やかにする(カットオフ周波数を下げる)
- LSI(IC)の電源フィルタ強化
- 基板の端にノイズ源を配置しない
基板パターンによる対策
次は上記ノイズ源となりうる、ICや電気信号が走る、基板側でのパターンによる対策です。
- 大きなベタを確保する。(多層基板ではGNDベタ層を配置)
- 高速配線、通信ラインはマイクロストリップ、もしくはストリップ構成とする。
- マイクロストリップ:一方にグランド面を設置し、絶縁層を挟んだ反対面に信号線を配置した構成
- ストリップ:絶縁層を介し信号線の表裏をグランド面で挟む構成
- クロックや通信ラインが350MHzを超えるような場合はストリップ構成を採用する
- クロックラインは基板の板端配置を避ける。
- 基板端はGNDで囲い、部品や、配線を板端へ配置しない。
- クロックラインは最短配線とし、リターンパスは確保する(下記同様)
- 高速配線の配線時は、信号線の真下を電流が流れる為、信号真下のGNDは切り欠き等が無い様にし、信号線とGNDは常にペア配線とする。
- クロックラインはGNDガードで囲う
- クロックラインはビアを使わない
フィルタによる対策
次はフィルタを活用した対策について説明します。フィルタはつければよいという物でもなく、GNDが強く無ければ効果は出ませんので、GNDはベタで強化されている。という事を前提に説明していきたいと思います。
- L/T型フィルタを使用して、高周波を抑制する。
- ダンピング抵抗で高周波のオーバーシュート、アンダーシュートを抑える。
- チップフェライトビーズを用いてターゲット周波数を抑制する(LCでも可)
- 差動線はコモンモードフィルタを入れ対応する。
- π型フィルタは使わない(ノイズ発生源のノイズがπ型フィルタのコンデンサを通って、Lを通らずに外に出てしまう為)
部品による対策
部品による対策は、ノウハウと技術が必要で、多くの方は過去の実績や、何となくフィルタ回路をつけている方が多いと思いますが、しっかりと、ノイズ源の周波数に対応したフィルタを構築する必要があります。各部品の役割は次の通りです。
- 抵抗
- 制御線のダンピングとして活用。470Ω~2.2kΩ程度が一般的
- ノイズ発生源の高調波の緩和(RCのローパスフィルタ)
- 伝送線路のインピーダンス調整
- コンデンサ
- 高周波を閉じ込める為に必要な部品(使い方を誤ると、高周波を外に出してしまう事もあるので注意)
- L,Rとの組み合わせで各種フィルタ形成(周波数注意)
- DCカットで使用
- インダクタ
- 高周波成分を阻止する為の部品
- Cとの組み合わせでL型(T型)フィルタを形成。Cで妨害電流をGNDへ戻し、Lで外に流れない様に防止する。※π型フィルタを形成すると、Cを伝ってノイズが外へ流れる為、使用しない。
- コモンモードフィルタ ※後でもう少し詳しく説明します。
- ノーマルモード電流に対しては磁束が打ち消し合い、損失なく伝送される
- コモンモード電流に関しては磁束が同相で密度が倍になり、インダクタンスも倍になる。
- フェライトコア
- 困った時のフェライトコアです。ケーブルに巻き付けるだけで効果が期待できます
- ケーブルをただ通すだけでなく、1巻、2巻とコアにケーブルを巻き付けた方が効果大
ノイズの種類
最後にノイズの種類について簡単に触れておきたいと思います。今までの説明で各種フィルタ、部品について説明してきましたが、ノイズの種類を間違えていると、対策が効きません。EMIの中には、機器から放出される放射ノイズとケーブルや回路の配線ラインを通して影響を与える伝導ノイズに分類されます。
また、電動ノイズの中には、ノーマルノイズと、コモンモードノイズに分類されます。
ノーマルノイズ
通常、ノイズは信号と共に伝わり、その信号はGNDを通じて戻ってきます。その戻ってくる電流をリターン電流といい、そのリターン電流は入力と逆の位相になるます。このノイズの伝わり方を、ノーマルモード、もしくはディファレンシャルモードと言います。
そしてそのモードの中で発生するノイズをノーマルノイズと言います。
コモンモードノイズ
コモンモードとは信号の帰路が正しい経路をたどらず、大地や筐体を通って戻ってきてしまい、結果として、入力信号と同位相になる事を言います。
ノーマルモードのノイズであれば、その配線上に対策をする事で改善できますが、コモンモードの場合は大地や筐体を通る事で発生する為、、対策の仕方が難しいという事と、大地を通して戻ってくるといった経路となる為、他の機器に影響を与える可能性がある。という問題があります。
コモンモードノイズの対策
上記のように、コモンモードノイズは回路の平衡性が保たれなくなってしまった時に発生するノイズですが、完全な平衡状態を作り出す事は難しいです。
そこで活躍するのが、コモンモードフィルタです。
2本の線に伝える信号のバランスが崩れるとコモンモードノイズが発生するのですが、このバランスの抑制の為にコモンモードフィルタが使われます。このフィルタは、コモンモード(ノイズ)に対してはインダクタとして働き、ノーマルモード(信号)に対してはそのまま通す。という働きがあります。
コイルが巻いてあり、位相が異なる信号は通る場合、磁界が打ち消す方向に働く事で、ノイズを消すという働きがあります。
※他にも対策はいくつかありますが、本記事ではコモンモードフィルタを1例として記載しています。
✓まとめ
EMC設計の技術に関して、記載しました。EMCは本当に奥が深いです。本記事では、EMC設計技術の概要を記載しました。下記の記事も、ノイズに関するノウハウを記載しておりますので、参考にしていただければ幸いです。
->【高速信号配線&基板ノイズ対策】プリント基板のパターン設計ノウハウ集
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