製品設計をする上で、信頼性試験というのは、製品が市場に出てからの信頼性を担保するという意味で非常に重要な試験項目です。
ではどのような試験項目があるのか?
本記事では、主にものづくりのエンジニアが押さえておかなければいけない信頼性試験の項目に関し、項目とその概要に関しまとめたいと思います。
信頼性試験の種類
信頼性試験といっても、様々な種類があります。大きく分類すると、「環境系」「EMC系」と2種に分ける事が出来ます。それぞれ概要を説明すると下記の通りです。
- 環境系の信頼性試験:主に温度、湿度の変化に対する耐性を確認する試験
- EMC関連の信頼性試験:電磁波による妨害、不要な電磁波を出していないか、電源へのノイズによる影響、不要なノイズを電源ラインに出していないかどうかを確認する試験
これらの試験内容に関し、概略の説明と該当規格のナンバーを記載していきたいと思います。試験内容はISO等で規定がありますので、本記事では、ものづくりをする上で最低限必要な信頼性試験項目と概要をいただき、さらに詳細を確認されたい方は、試験内容詳細の方はISOにて確認いただいた方が良いかと思い、そのようなつくりにさせて頂きました。
※EMCに関しては下記の記事も参考にしていただければ幸いです。
参考:ノイズとの闘い。ものづくりエンジニアの為の、EMCとは?EMC設計技術とは?
環境系の信頼性試験
- 温度サイクル試験(JIS 60068-2, IEC 60068-2)
低温~高温と温度変化を繰返し、試験体を加速劣化させて耐久性を評価する試験
- ヒートショック試験(JIS 60068-2, IEC 60068-2)
低温~高温と急激な温度変化を繰返し、試験体を加速劣化させて耐久性を評価する試験
- 高温動作試験(JIS 60068-2, IEC 60068-2)
高温条件下で継続動作させる事で、耐熱性を評価する為に実施する為の試験。(温度が変わると各電子部品の特性も変わりますので、高温環境を継続動作させても問題ないかどうかを確認する試験)
- 低温動作試験(JIS 60068-2, IEC 60068-2)
低温条件下で継続動作させる事で、低温環境下で問題なく動作する事を確認する為の試験。
- 高温保存試験(JIS 60068-2, IEC 60068-2)
長時間高温環境下に置かれた場合の耐久性を調べる試験、一般的に高温動作試験よりも高い温度で実施
- 低温保存試験(JIS 60068-2, IEC 60068-2)
長時間低温環境下に置かれた場合の耐久性を調べる試験。
- 高温高湿バイアス試験(JIS 60068-2, IEC 60068-2)
稼働中の湿度と電圧の作用による耐久性を高温環境下で確認する試験。主に高湿環境による変化を確認
- IP試験(IEC 60529,JIS C 0920,ISO 20653)
IP(International Protection)とは、電気機械器具の外郭への異物、ホコリや水に対する保護等級です。試験評価は保護等級により標準化された試験方法によって評価します。近年はスマホ等も防塵防水仕様の物もあり、見慣れていると思いますが、各数字の説明を簡単にしたいと思います。
IPコードの初めの数字(第一特性数字)がホコリに対する保護等級を表し、2番目の数字(第二特性数字)が水に侵入に対する保護等級を示します。
■第一特性数字の意味
第一特性数字 | 固形物に対する保護等級の説明 |
0 | 無保護 |
1 | 直径50mm以上の大きさの外来固形物に対して保護している。 |
2 | 直径12.5mm以上の大きさの外来固形物に対して保護している。 |
3 | 直径2.5mm以上の大きさの外来固形物に対して保護している。 |
4 | 直径1.0mm以上の大きさの 外来固形物に対して保護している。 |
5(5K) | 防塵:塵埃の侵入を完全に防止する事は出来ないが、電気機器の所定の動作及び安全性を侵害するような侵入はあってはならない |
6(6K) | 耐塵:塵埃の侵入はあってはならない |
■第二特性数字の意味
第二特性数字 | 水の侵入に対する保護等級の説明 |
0 | 無保護 |
1 | 鉛直に落下する水に対して保護する。 |
2 | 15度以内に傾斜しても鉛直に落下する水滴に対して保護する |
3 | 散水に対して保護する。 |
4(4K) | 水の飛まつに対して保護する。 |
5 | 噴流に対して保護する。 |
6(6K) | 暴噴流に対して保護する。 |
7 | 水に浸しても影響がないように保護する。 |
8 | 潜水状態での使用に対して保護する。 |
9K | 高圧の水を用いて洗浄する時または、スチームを噴射して洗浄する時の水に対して保護する。 |
- 振動試験(JIS C 60068-2-6、IEC 60068-2-6)
試験台の上に乗せ、主に正弦波(サイン波)やランダム振動による耐振性能を確認する試験
- 衝撃試験(JIS C 60068-2-27、IEC 60068-2-27)
主に輸送や荷物の取り扱い中に衝撃が与えられた場面を模擬した試験。
EMC関連の信頼性試験
EMC関連の試験には、次の2種類がありますので、それぞれ説明していきます。
■電磁障害 EMI(EMI:Electromagnetic Interference):エミッション
■電磁感受性 EMS(EMS:Electromagnetic Susceptibility):イミュニティ
まずは、EMIからです。
- 放射エミッション(ISO 13766)
電子機器から外部へ放射される不要輻射(EMI)を評価する試験です。EMI(Electromagnetic Interference )は電磁妨害放射規制と言われ電子機器が他の電子機器への妨害を排除するために電子機器から漏れる電磁気的雑音(電磁波)の放射、伝搬を規制するものです。
- 電動エミッション(電圧法)(CISPR25)
電子機器の電源ハーネスに重畳する伝導ノイズが、規格限度値を超えていないか評価する試験です。試験は、電源と電子機器の電源線の間に擬似電源回路網を接続し、ここから妨害波を取り出し、スペクトラムアナライザ、または、EMIレシーバで測定。
- 電動エミッション(電流プローブ法)(CISPR25)
電子機器のハーネスに重畳する伝導ノイズが、規格限度値を超えていないか評価する試験です。試験は、電流プローブでハーネスに重畳する妨害波をスペクトラムアナライザ、または、EMIレシーバで測定。
以降はEMSです。
- アンテナ照射試験(ISO11452-2)
電気電子機器およびワイヤーハーネスへの電界結合による照射試験を行い、誤動作や耐性を評価する試験。簡単に記載すると、アンテナで発生させたノイズで誤動作しないかどうかを確認する試験です。
- レーダーパルス試験
電界強度600V/m のレーダーパルスを照射し、電子機器の誤動作や耐性を評価する試験。この試験はアンテナ照射に類似ですが、特徴としては、1.2GHz~1.4GHzと2.4GHz~3.1GHz帯の周波数を利用する航空監視レーダーの電界を再現している事が特徴となります。
- TEMセル試験(ISO11452-3)
上記2種と似ていますが、ラジオ/TV放送、トランシーバ、及びアマチュア無線などの無線電波に対するイミュニティ試験です。
- 低周波イミュニティ(ISO 11452-10)
低周波の伝導性ノイズをワイヤーハーネスへ励振し、電気電子機器の誤動作や耐性を評価する試験
- BCI試験(ISO11452-4)
電気電子部品の電源線・信号線等のハーネスにバルクカレントインジェクション(BCI)プローブでRF電流を注入し、誤動作レベル・妨害排除能力を評価する試験。簡単に書くと、ケーブルに電流ノイズを印可させ、誤動作しないかどうかを確認する試験です。
- 静電気試験(ISO 10605、IEC 610004-2)
人体などに帯電したエネルギーによって発生する静電気放電(ESD:Electro Static Discharge)を再現し、車載用電気電子機器の誤動作や耐性を評価する試験。
- 過渡電圧試験(ISO 7637-2)
電子機器の電源の切断により発生する電気的過渡現象における電気電子機器の誤動作や耐性を評価する試験。車載器に関しては下記のような試験が有名です。
フィールドディケイ (電源回路 負サージ試験) | オルタネータのフィールドコイルから放射されるサージのみならず誘導系負荷から放出されるサージを再現(方形波、バースト波) |
ロードダンプ (電源回路 正サージ試験) | バッテリ端子外れによって生じるサージについて再現 (高周波パルス、ジャイアントパルス、台形波+高周波パルス) |
耐誘導ノイズ | 車両の代表的な電気雑音源(モータ、ソレノイドコイルなど)を組み合わせた、誘導負荷の遮断時に生起するノイズを再現 |
L負荷接続回路サージ | 電源回路以外のインダクタンス負荷に接続する回路が対象となり、雑防フィルタ有無による単パルス・振動波を再現。またリレーおよび機械的接点の放電に伴う負バイアス波形も再現 |
高圧ノイズ | EV、HV車両から発生する高圧ノイズを再現 |
- 電源変動試験(ISO 7637-2)
電源電圧変動時の電気電子機器の誤動作や耐性を評価する試験。様々な試験があり、電圧を低い⇔高い周期的に変化させたり、階段状に徐々に電圧を変えたりするような試験。
- 電源瞬断試験(LV124)
電源供給が電気回路のチャタリング等により瞬断することを評価する。
まとめ
以上が最重要な信頼性試験項目22選です。これらの項目以外にも多くの信頼性試験項目がありますし、製品によって内容も変わってきます。本記事では、若干車載製品に偏った書き方になっていますが(車載製品は試験が厳しく項目も多い為)各取り扱っている製品に応じて内容若干変わってきますので、ISOはJIS,IEC等でも確認される事をお勧め致します。
また、これらの規格は下記の記事で紹介した、CEマーク取得の為にも必要になってくる規格で、非常に重要です。CEマーキングに関しては下記の記事を参照頂ければ幸いです。
参考:CEマークと、機械指令、低電圧指令、EMC指令について解説します。
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