ものづくりエンジニアが主にデジタル回路を設計する時、抵抗、コンデンサ、インダクタは必須の部品です。
その中で、今回はコンデンサの使い方について説明致します。
細かな理論は省き、使われる場所と使われ方、これだけの役割を覚えれば、すぐに実践で活用できように重要な使われ方を6種、記載していきたいと思います。
本記事の使い方をマスターする事で、少なくともパソコンのマザーボード等の電子機器の設計、スマホ、デジカメ、車載機器等の電子機器の設計で活用できるようになります。
これから回路設計を学ぶという方、多くの初心者の方は、書籍をみて、コンデンサの理論を学ばれていると思いますが、実戦になかなか活かせないと思います。私もそうでした。
本記事では、コンデンサにはこういう役割があって、こういう所に配置する必要がある、定数はだいたいこんなものだよ。という内容を、実際の回路図を用いて感覚的に分かるようにまとめていきたいと思います。
抵抗器に関する記事も書いておりますので、よろしければご覧ください。
->【超実践編】エンジニアの為の、電子機器で使われる、コンデンサの役割6選
コンデンサの役割
多くの書籍では、コンデンサの説明に入る時に、電極や、絶縁体、また、コンデンサの種類の説明から入ると思いますが、勉強編ではなく実践編ですので、直接設計に関係のない内容はすべて割愛し、実践にすぐに活かせる内容を説明していきたいと思います。
私が考える電気回路におけるコンデンサの基本概念は下記。 パシャパシャ水路を流れている水が入るバケツ的役割です。
コンデンサはバケツ、電気は水、回路は水路。
つまりバシャバシャ流れて来る水をバケツで一旦受けると、その波の強さがバケツで中和され、波が静かになるという効果がコンデンサの効果です。
電気の流れに言い換えると、回路(水路)を流れるノイズ(波)がのった電気(水)がコンデンサ(バケツ)を通過すると、そのノイズ(波)が除去でき、その役割がコンデンサの基本です。
イメージはこんな感じです。緑の線がもともとの電源の電圧だとした時、この図のようにノイズ(電圧降下含む)で一部電圧がへこんでいたりする場合、コンデンサはそれを補うように働き(コンデンサに蓄えた電荷で補填し)赤線のように、電圧を平滑化させる役割があります。
概ねこの概念で設計できるのですが、上記のバケツ概念が当てはまらない特徴があり、それは、波は蓄えるのではなく、通過させる特徴を持っているという事です。
コンデンサは、波を通過させる特徴を持つ
電気用語でいうと、交流は通過させる特徴があり、直流は通過させない。つまり同一電位(同一水位)の流れは遮断できますが、電圧が変動する(水位が変動する)時はその波は通過させます。
イメージは次のような感じとなります。緑の線が、ある電位をもった波ですが、それをコンデンサと通すと、直流の成分は遮断され、交流成分だけ通る為、コンデンサ通過後は、直流電圧は0になり、0Vを基準に振幅する交流成分だけが通過する事になります。この特徴を利用して、ノイズのみを通過させる、という活用方法もあります。
この2つの特徴を理解すれば、多くの回路設計で活用可能です。
そして、コンデンサにはいくつか種類があると思いますが、電子回路設計の製品設計に活用されるコンデンサは下記が主流。一旦セラミックコンデンサだけ覚えれば大丈夫です。
憶えるべきコンデンサの種類はセラミックコンデンサだけでまずはOK。
役割1:回路全体の入力電源平滑化
あるマザーボードの電源入力の回路です。
24Vを外部から基板にもらった後、その電源を平滑化する為のコンデンサです。下の図の赤丸。
平滑化とは、入力電源にノイズが載っていたり、他の機器と電源を共通化する事で、負荷変動が大きいような電源を、自分の回路に綺麗な状態(安定した状態にして)にして供給する。という事を目的としています。
入力電源に乗っているノイズの周波数特性が決まっていれば、その周波数をカットするように定数を決めますが、(この参考回路はそうなっています)しかしながら多くの場合、入力電源は外部からもらう為、その特性が分からない場合が多く、様々な周波数に対して対応できるように、異なる定数のコンデンサを3~4個くらい入れておき、様々な周波数に対応できるようにしておく事が多いです。例えば負荷変動の大きいPCの電源等のいわゆるあまり綺麗ではない電源の場合は、100uF,47uF,4,7uF,1uFといった具合に定数を大~小のサイズをまんべんなく入れます。
ポイントは、電源の揺れやノイズが入力電源に入ってきた時にそれを平滑化して、自分の基板に汚い電源が入る事を防ぐ事が目的となります。
繰り返しになりますが、汚い電源とは下記のようなイメージです。通常電源電圧は一定である必要がありますが、上記図のように、ノイズの影響を受けたり、負荷による変動が発生した時に下の緑の線のように電源が一定ではなくなります。電源が不安定なまま、様々なデバイスに供給されてしまうと、誤動作の原因になる為、回路設計の際は、電源をもらう入力の部分にコンデンサをつけて、電源の安定化を実施します。そうする事で下の赤線のように、電源電圧を安定させる事が出来ます。
これが重要な役割の1つ目です。
役割2:DCDC電源、PWMの平滑化
次の役割としては、DCDCコンバータのスイッチングや、PWMのパルスを平滑化させる役割です。
この使い方が一番コンデンサとして分かりやすい使い方かと思います。一般的なDCDCコンバータの参考回路は下記となります。
コンデンサは赤丸の部分で使われていますが、このコンデンサが無かった場合の波形は下の図の上のような波形となります。
電圧をスイッチする事がDCDCコンバータ(スイッチング電源)の駆動方法ですので、このような矩形波がSWという端子から出ています。それにコンデンサを配置する事によって、下の図の下の絵のように矩形波の立ち上がりを遅く、立下りを遅くし、平滑化する事で、電圧のレベルを安定させます。
この時、下の図の下の絵の波形がのこぎり波みたいな形になっているのが、リップルと呼ばれるもので、コンデンサの定数が不適切な場合、このリップルが大きくなり、誤動作の原因となります。コンデンサの定数はDCDCコンバータの仕様書をみて、駆動周波数と負荷から決めますが、仕様書に書いてある参考例と、自分の回路の使い方(負荷)とを比べ、類似条件の定数をそのまま使って問題ないと思います。
上記を水に例えると、大きな波がバケツを通り過ぎた時、始めは水がバケツに入る為、バケツを通り過ぎた後のポイントではあまり水位は上がらず、波が続けば、次第にバケツの水位も上がり、バケツがいっぱいになったタイミングで最大水位(最大電圧)となる。次に、水が急になくなったら、バケツに溜まっている水をすこしづつ吐き出す。吐き出している途中にまた波がやってくるので、またバケツに水を溜め、そして吐き出す。これを繰り返します。よって入力が上の図の上の絵のような矩形波をコンデンサを用いて平滑化する事が可能となります。
PWM駆動の平滑化も全く考え方は同じです。例えば10Vの電圧でDuty50%で駆動しているPWM波形にコンデンサを入れる事で、電圧は5V(50%)の定電圧にする事が出来ます。
このように矩形波を平滑化させる事が2つ目の重要な役割となります。
役割3:ICの電源入力平滑化
3つ目の大きな役割はICの電源入力端子付近に配置するコンデンサです。パスコン(バイパスコンデンサ)と一般的には呼ばれています。これはICの電源端子直近に下の図のように取り付けるコンデンサです。定数は1uF,0.1uFを各電源端子付近につける事が多く、ここでは言及しませんが、3端子コンデンサに置き換えるような設計も現場では行われていると思います。
このコンデンサの定数は上記に記載の通りで、半導体の仕様書に基づき決めれば問題ないですが、重要な事はその配置位置です。配置位置が端子から離れてしまうと全く効果が無い為、上の図のように電源端子の直下につける必要があります。
それは半導体が動作する事で次の現象が発生する為です。
- 電圧降下(半導体の電流の起伏による電圧降下)
- 半導体電源端子のノイズ発生
- 半導体電源端子のノイズが伝搬
2,3の現象を抑制する為、端子のすぐ近くにコンデンサを設け、コンデンサの機能である「波を通過させる機能」を使います。つまり、端子から発生したノイズ(波)をコンデンサを通して、すぐにGNDに戻す。結果、そのノイズが他の部品に影響を及ぼさなくなります。
これが、もしコンデンサが端子から遠い場合どうでしょう?
端子からでたノイズはコンデンサに到達するまで、ノイズをまき散らしながら基板の広範囲に広がる事になります。
1の現象の為には、役割1に記載した平滑化の機能を使い、電圧の揺れをコンデンサで抑制します。
役割4:電源の充放電
4つ目の役割は、充放電です。まさに「バケツ」の役割となります。
製品は通常電源スイッチをONして、OFFする。という動作が通常動作となり、 通常動作であれば、電源OFFのスイッチをトリガにバックアップを機器の中で自動的にとったり、退避処理をするように回路を組むと思いますが、停電や、バッテリを急に引き抜いた。コンセントを抜かれた、といったイレギュラーな動作にも対応する必要があります。
PCやスマホで、SWのアップデート中に、電源を切らないでください。とメッセージが出てくるのはデータ更新中に電源が遮断され、メモリが書き換え途中の状態で電源が落ちてしまった時、最悪起動できなくなってしまう事を防ぐ為です。(ご存知ですね。)
デジタル回路の場合、データをメモリに退避させたり、正しい電源OFFのシーケンスを走らせる為に、主電源が急になくなっても、最低限の動作が出来るように、コンデンサに蓄えておいた電力で、最低限の動作をし、起動不良が発生しないように対応する場合が多いです。
1例とはなりますが、例えば次の回路のように、コンデンサと逆流防止のダイオードをつけるなどの対応で、通常動作時はコンデンサへチャージし、急な主電源途絶の場合にこのコンデンサの電力をダイオードより右の回路へ供給しバックアップ処理等を実行します。このコンデンサは、小規模な回路であればセラコン(セラミックコンデンサ)でも問題ありませんが、消費電力の大きい物になればなるほど容量が大きくなり、電解コンデンサや電気二重層(スーパーキャパシタ)といった他のコンデンサが必要になってくる場合もあります。
注意点として、コンデンサによっては、入力抵抗が低い物があり、(セラコンは低い)そのコンデンサを大容量つける事で、電源投入時の突入電流が爆上がりする懸念がありますので、それが発生しないように、電流制限の抵抗等をつけるなどの工夫が必要です。
充放電の計算式は、いろいろなサイトで学術的な内容がかかれておりますので、それに従って計算頂くか、下記のようなサイトを参考いただくと簡単かと思います。
役割5:フィルタ回路
5つ目の役割は、CRローパスフィルタです。CRフィルタとは簡単に言うと、波形をわざとなまらせて立ち上がり時間を遅らせる為の回路です。
これは、各ICのリセット端子や、電源のEnable端子によく使われます。
ICのリセットはマイコンで制御する場合もあれば、パワーオンリセットといって、電源投入と同時にリセットを解除する回路を回路として組む場合がありますが、このパワーオンリセットをする際、リセットは、電源より後に解除する。というシーケンスを求められる場合が多々あります。その際に抵抗とコンデンサを下の図のように配置し、時定数を持たせ、波形に遅延を持たせる事をします。これをCRローパスフィルタと呼びます。
また、複数の電源を持つ回路の場合、一般的にはその電源の立ち上がる順番を制御する必要があります。マイコンで制御する事も可能ですが、簡単な回路であれば、この時定数を調整し、電源の立ち上がる順番をCRフィルタでコントロールする事も可能です。
波形をなまらせるというのは、下のようなイメージです。青が波形で、本来であれば、黒枠と同じ立ちように直角に上がり方をするのですが、CRフィルタを用いる事で、立ち上がりをゆっくりにする事が可能です。
R,Cの定数のより、時定数が決まり、どの位波形をなまらせるのかを計算できますが、このような計算サイトがありますので、こういった計算サイトで計算するのが早いでしょう。
役割6:AC結合
最後の役割はAC結合(ACカップリング)の役割です。コンデンサは、 交流は通過させる特徴があり、直流は通過させない。 という特徴がある事を一番初めに説明しました。つまり信号ラインに直接にコンデンサを入れると、下の図のように、交流成分のみを通し、電圧は0を中心に振幅する信号を作る事が可能です。
どのような場面で使われるか?
主に2つの回路をまたぐ差動信号の受け渡しや、2つの回路をまたぐ差動信号の受け渡し時に活用されます。IC間でグラウンドが異なる場合や、同じグラウンドでも遠く離れている、基板が分かれている、グラウンドの変動がシビアに伝送に効いてくる、そういった場合に正しく信号を伝える為に、下の図のようにAC結合のコンデンサを入れ、伝送します。
定数は、これらの信号を送信または受信するICの仕様書に記載されている場合が多い為、その定数に従い入れます。ただし高速差動配線で用いられる場合が多い為、配置位置やパターン設計にはケアが必要です、配置位置は、ドライバ(送信)側にできるだけ近づけましょう。下の図参照。
高速配線のパターン設計は、他にもケアが必要な内容が多くあります。それらの内容は下記を参照頂けると幸いです。
->【高速信号配線&基板ノイズ対策】プリント基板のパターン設計ノウハウ集
まとめ
主にデジタル回路で使われるコンデンサの役割6選を説明してきました。一般にガジェットと言われる製品、モバイル、黒もの家電の設計では、概ねこれらのコンデンサの使い方を覚えておけば、十分設計できると思います。ご参考にしていただければと思います。
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