ISO12100には、設計者が安全な機械を設計製作する為の必要な設計手法の基本的な考えが記載されており、リスクが適切に低減された状態にするための方法論が示されています。その方法論は、3ステップメソッドと言われており、非常に重要なステップですが、ISO12100を読むだけでは分かりにくく、難解です。本記事では、そのステップをISOを読まなくでも理解できるように、分かりやすく解説したいと思います。
リスクアセスメントの手順に関しては、下記の記事で説明しておりますので、ご参照お願いいたします。
ISO12100、危険源を取り除くリスクアセスメント5つの手順を解説
ステップ1:本質的安全設計方策
3ステップメソッドのはじめのステップ、本質的安全設計とは、次の内容に取り組む事を言います。
- 危険源を除去する。暴露頻度を低減する。
- 視認性の確保をする。危険な端部、突出部を回避する。
- 騒音レベル、放射レベルを低減する。危険性の少ない代替物質を採用する。
- 材質、応力、耐腐食性を考慮し、適正な材料を選定する
- 以下のような本質的安全設計を採用する。
- 安全防護策により、安全機能の自動監視をする。
- 不具合発見を支援する診断システムを採用する。
- 以下のような安全機能の故障確率を最小化する方法を採用する。
- 信頼性のある構成部品を使用する。
- 構成品、またはサブシステムによる2重化を行う
- 自動化による危険源への暴露機械を制限する。
- 設定や保全の作業エリアを危険区域外にする。
例えば、産業用ロボットを取り扱うような場合、次のような検討を実施し、本質安全設計を行います。
- ロボットの能力、仕様の最適化を実施。
- 例:サイズ、制御軸数、可動範囲
- 作業者とロボットの位置関係を考慮。
- 例:機械的危険の範囲、熱的危険の範囲の考慮
- 作業性を考慮。
- 例:ワーク取り扱い、繰り返し操作、手動操作
- ロボットのティーチング操作性の考慮。
- 例:操作位置、操作手順
- 安全な保全作業の考慮。
- 例:視認性、メインブレーカの設置
ロボットに関する記事は下記にも記載しておりますので、もしよろしければご参照お願いいたします。
もうそこまで未来が来ている!産業用ロボットの市場規模と未来予測
産業ロボット向けロボットコントローラの構造【最重要の4つの機能】
協働ロボットの市場と各メーカの特徴比較。これからの主役は協働ロボット
ステップ2:安全防護及び付加保護方策
次に、ステップ2として、安全防護、付加保護方策について説明したいと思います。
■安全防護とは
- 検知保護設備を活用する。
- セーフティライトカーテン
- セーフティレーザスキャナ
- セーフティマット など
- 固定式ガードを活用する。
- 安全柵 など
- 可動式ガードを活用する。
- インターロック付き、安全柵 など
方策例として、原則に基づき、次の4パターンを解説したいと思います。
- 方策例1:固定式ガードによる保護(隔離の原則)
- 安全柵等のガードにより、作業者を危険源に近づけないという方策。
- 方策例2:可動式ガード+インタロック回路による保護(停止の原則)
- 安全柵の扉を開けると、ロボットが停止するような方策。産業ロボットのラインでは一般的な方策。安全柵は外側からしかロックがかけられない構造の為、扉が閉まっている時は必ず、人は柵の外にいるという事が担保される。そういった意味で、下記方策2より優れている。
- 方策例3:セーフティライトカーテン+インタロック回路による保護(停止の原則)
- 方策2の安全柵がライトカーテンになっただけで方策は同じ。ライトカーテンを遮光するとロボットが停止する。ただこの場合、ライトカーテンの内側に入った状態で、ライトカーテンの電源を入れた場合、効果が出ない為、運用は注意が必要。
- 方策例4:セーフティマット+インタロック回路による保護(停止の原則)
- 方策2の安全柵がセーフティマットになった方策。マットを踏むとロボットが停止する。
■付加保護方策とは
ガードやセンサー等の安全保護装置を使ってもリスクを十分に低減できない場合に適用する保護方策です。 わかりやすい例として、非常停止ボタンの使用が挙げられます。非常停止ボタンは次のように設計する必要があります。
非常停止機能は明確に識別可能で速やかに接近可能なように設計する事
非常停止の代表的な例として次の3点があります。
- 押しボタン方式
- 最も一般的な方式です。機械類一般を停止する為に、ロボットコントローラやティーチングペンダント、工作機についている、赤い色の非常停止ボタンです。↓
- ローブ方式
- 搬送ラインやベルトコンベア等に並走してついているロープです。作業エリアのどこからでもそのロープを引っ張る事で非常停止がかけられます。
- ペダル方式
- 特定の作業者、作業位置において、足で踏む事で作用する非常停止スイッチ。工作機械やプレス機等で、手がふさがっていても、足で操作して停止出来る事を目的としています。
ステップ3:使用上の情報
最後にステップ3の使用上の情報として、次の方策があります。
- 付属文書やラベルなどで残留リスクや訓練、保護具、追加の保護装置の必要性を通知する。
- 視聴覚信号による警報を発する。
- 製造者や型式、装置仕様などを表示する。
- 付属文書などで保管条件、質量、寸法、破棄方法を明記する。
具体的には、
- パトライトのような警報表示
↓工場でよく見る下記ですね。安全の有無を視覚的に表示
- 警告ラベルの表示
↓こんなラベルもよく工場内でみますよね。危険を識別する為のラベルです。
使用者によって講じられる保護方策
リスク低減方策の3ステップメソッドを説明してきました。
ステップ1:本質安全設計を考慮
ステップ2:安全防護及び付加保護方策を考慮
ステップ3:使用上の情報を表示
この3ステップを「設計者によって講じられる保護方策」といい、その後、「使用者によって講じられ保護方策」(下記)を実施する事がリスク低減のプロセスとなります。
- 組織による保護方策
- 安全作業手順書
- 監督者の配置
- 作業者許可の仕組み
- 追加安全防護物の準備と使用
- 保護具の使用
- 訓練 など
これらの方策を実施する事で、安全な生産ラインを作っていきましょう。
産業用ロボットに関する記事を過去記載しておりますが、産業ロボットもこのリスクアセスメントの対象となります。もしよろしければ参照頂ければ幸いです。
->産業ロボット向けロボットコントローラの構造【最重要の4つの機能】
->もうそこまで未来が来ている!産業用ロボットの市場規模と未来予測
->協働ロボットの市場と各メーカの特徴比較。これからの主役は協働ロボット
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