なぜ家電は保証期間を過ぎると壊れるのか?ソニータイマーの謎を解説。

なぜ家電は保証期間を過ぎると壊れるのか?ソニータイマーの謎を解説。

都市伝説とも言われたソニータイマー、また、ソニーに限らず家電は何故か保証期間を過ぎるとよく壊れます。一方、車や産業機器はなかなか壊れません。何故家電は保証期間を過ぎると壊れるのか?

そんな疑問にお答えしたいと思います。

本記事では、保証期間を過ぎると物が壊れる理由に関し、エンジニアという観点で、設計視点と信頼性試験という2つの観点で解説していきたいと思います。

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保証期間を過ぎると家電が壊れる理由(ソニータイマーの理由)

保証期間を過ぎると家電が壊れる理由。それはすごく簡単な理由であり、その期間しか保証できない設計をしているからです。

その期間は製品やメーカによって異なります。携帯電話、デジカメ、冷蔵後、エアコン、車、それぞれで違いはありますが、考え方は同じです。

例えば、携帯電話を開発する。というプロジェクトが発足したとします。その時、

  1. 市場の使われ方から、その携帯電話は平均何年使われるのか?
  2. 上記想定から、その携帯電話は何年壊れない設計にする必要があるのか?
  3. 上記の設計から、その携帯電話の保証は何年にすべきなのか?

という議論がなされた後、設計として、何年耐えるような設計にするかを決定します。要するにここで設計ルールが決まり、製品の寿命が決定します。

この寿命設計はとても重要であり、むやみに長い寿命にしてしまうと、次のような不利益が生じます。これはメーカ側だけでなく、使う側にとっても不利益になりますので、このバランスを考える事がとても重要で、製品性を決める重要な論点です。

■製品寿命を延ばすメリット

  • その製品が長く使える。その結果、お客さんからのクレームが来ず、リピートしてくれる。製品や、メーカの信頼性が上がる。
  • 製品が壊れにくいので、安心、安全でその製品が使える。

■製品寿命を延ばすデメリット

  • 耐久性の高い部品を使うため、部品コストが上がる。結果、製品の価格が高くなる。
  • 耐久性の高い部品、材料はどれも大きくごつい為、部品や製品のサイズが大きくなる為、物によっては製品デザインが悪くなる。
  • 保証期間を長くすると、その分、故障時の交換用の在庫を長期間保有しないといけない。また不具合の対応をする為の人員も確保必要、結果製品コストが上がる。

このように、寿命が長い事で、信頼性は上がりますが、その分、コストが上がったり、デザインが悪くなり、そもそも買ってもらいない。という事も発生します。 このバランスをとる事がとても難しい所です。

ソニータイマーと言われるのは、このデメリットを避け、より斬新な製品を出来るだけ安いコストで提供する為(それでもソニー製は高いですけど)、製品保証期間は必ず耐える、ただし、それ以上に寿命を上げる事に力を入れるよりも、デザイン性、性能、コストを重視した結果、保証期間しか耐えられない設計になってしまった。

と予想しています。

一方、人の命を預かるような車載製品は、「デザイン、コスト」よりも、「安心、安全」を重要視するため、車はものすごく高い代わりに、日本の車はほとんど壊れません。

工業製品等も、一旦壊れて工場のラインが止まったら、設備1台分のコストの比ではない損失になる為、高くても壊れない設計の方が望まれます。

このように、製品に応じて、それぞれ買い手、使われ方の状況に合わせて寿命設計をしている為、いわゆる民生品と言われる、黒モノ家電は、車等に比べ壊れやすい。という印象を持つのだと思います。

ただ、エンジニア視点で考察すると、想定通りの寿命設計をする事はとても難しい事であり、ソニータイマーと揶揄されるくらいしっかり、保証期間ピッタリで壊れる設計ができるのは、逆にものすごく高い技術力があるのだと思います。

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寿命を延ばす為の設計

それでは、寿命を延ばす為にはどのような設計をする必要があるのか、簡単に説明していきたいと思います。

■耐久性の高い部品を使う

まずはこれです。製品に使われている部品そのものの耐久性を上げる。例えば、ブラスチックの場合は耐熱温度を上げる。半導体であれば、グレードを上げる(半導体は、民生、産業、自動車等のカテゴリにより、同じ機能を持つ物でも耐久性が異なる物がラインアップされている)

ただし、部品のグレードを上げて、その部品の耐久性を上げるという事ですので、原材料が上がる為、その分コストに直接跳ね返ってきます。

■部品の定格と発熱を考慮した設計をする

その部品が持つ限界温度に対し、十分余裕のある設計にする。という意味です。ここでは特に熱に着目したいと思いますが、熱に着目する理由として、製品寿命は、部品の耐熱温度と温度上昇に関係が強い為です。 (もちろんこれだけではありませんが、本記事では主要因である熱にフォーカスしたいと思います。)

いくら耐熱性の高い部品を使っても、その耐熱温度ギリギリまで発熱する製品では寿命は短くなってしまいます。各材料や部品の耐熱温度に対し、その部品が何度まで温度が変化するのかを見積もり、寿命設計をします。

例えば、ipnoneに入っているチップで考えてみると、仮に耐熱温度が100℃だったとします。各使われる状況に応じた、耐熱温度との差はざっくり次の通りとなります。

  1. 部屋に置きっぱなしで電源OFFの場合。部屋が25℃とるすと、100℃-25℃=75℃の余力あり
  2. 上記で電源を入れ、カメラを起動した場合、ipone自己発熱が20℃とすると75℃-20℃=55℃の余力
  3. 上記を充電しながら行う場合、充電による発熱が+10℃とすると、55℃-10℃=45℃の余力
  4. 上記を炎天下の夏だった場合、部屋の中より+10℃高いとして、45℃-10℃=35℃の余力

この使い方では、耐熱温度100℃に対し、35℃の余力がある事になります。

もしチップの耐熱温度を120℃にした場合、余力は55℃に増え。これは、その分寿命が延びる事を意味します。

また、例えば上記「2」でカメラが起動しても5℃しか発熱しなかった場合、最終的な余力は50℃にり、これでも寿命は延びます

部品の定格に対し、発熱量をどこまで抑えるかは、考慮する寿命により変わってきますが、これをしっかり考え、製品寿命を設計します。これが耐久性の高い設計の方法です。

しかしながら、これをしっかりコントロールする事は容易な事ではありません。電子機器に使われている部品は数万点にも及びますし、筐体部品、ケーブル、その他さまざまな材料が含まれています。環境温度も、使う人、地域に応じて千差万別です。それらすべての条件と部品すべてを1つ1つ考慮する事はかなり難しいです。

寿命設計がしっかりできるメーカというのは、このような設計のルールがしっかり決まっている上に、使われ方の定義、製品寿命のあるべき姿がしっかり定義されている事を意味します。

※この記事では熱設計のみに着目していますが、前述の通り、製品の信頼性を上げる為には、電圧や、電磁界、静電気、ノイズという様々「壊れない為の設計手法」があります。今後これらも記事にしていこうと思いますが、誤動作という意味では、ノイズに関し詳しく記載した記事がありますので、よろしければご参照頂ければ幸いです。

参考:ノイズとの闘い。ものづくりエンジニアの為の、EMCとは?EMC設計技術とは?

寿命を確認する為の試験

最後に製品の寿命を確認する方法について解説します。例えば10年の寿命の製品とした場合。どのように10年壊れないのか測定するのでしょうか?その答えは加速試験です。

加速試験とは、時間を加速させるための試験で、例えば数か月の試験で、その製品を数年間もつかったと同じような効果を与えるといったものです。仮に製品寿命が10年の物であっても、その加速の仕方により、試験自体は数か月で完了するものがほとんどです。

この加速試験により、各メーカは製品寿命の期間を評価し、問題ない製品を出荷しています。一番初めに書いた、 保証期間しか耐えられない設計というのは、上の章で記載した、寿命計算を保証期間内とし、この章で説明する、加速試験も保証期間としているのだと予想しています。

それでは最後に加速試験について解説していきたいと思います。

■加速試験

印可するストレスを大きくする事で、数か月であたかも数年動かしたかのようなストレスを与える試験です。人間もストレスが過度にかかると寿命に影響がある事と同じで、電子部品も同様、ストレスを強く与える事で、寿命を短くする事が出来ます。ここでいうストレスとは主に次の2点です。

  • 温度
  • 電圧

温度や電圧を通常の使い方とは異なる大きな値を与える事で、過度のストレスとなり、10年の寿命が3カ月になったり、そういった変化をします。その加速具合を示す倍率を加速係数とよく呼びますが、製品の寿命や使っている材料によって、加速係数を決めます。温度、電圧をどのように変化させれば、どの位加速できるかを計算し、製品に応じて、各試験の、温度、電圧を決めます。

代表的な加速試験は次の試験となります。

  • 温度サイクル:低温⇔高温の繰り返し、何サイクルも実施する試験
  • 高温動作試験:高温環境下で動作させ続ける試験
  • 高温保存試験:高温環境下で、電源を入れず放置する試験。

加速係数は、JEITA規格EIAJ ED-4701に準拠し、以下の計算式により算出する事が多いです。

加速係数算出式: L= exp(Ea/kT2)/exp(Ea/kT1)

L :加速係数

Ea :活性化エネルギー

k :ボルツマン係数

T2 :実使用温度(絶対温度)

T1 :加速試験温度(絶対温度)

高温保存を例にとり、実際に加速係数を出してみると、次のようになります。
具体的には以下の条件を代入、
活性化エネルギー 0.5 eV
ボルツマン係数 8.617×10-5 eV/K

仮に実使用温度を40℃、加速試験温度を125℃とすると
1000 h(約42日) →5.9年に相当
2000 h(約84日)→11.8年に相当

約3カ月で10年以上に相当する事が分かります。このような試験で加速させ、寿命が設計通りになっているかどうか、製品寿命を満足しているかどうかを測定します。

まとめ

なぜ家電は保証期間を過ぎると壊れるのか。

それは、設計も評価も、意図的にその期間をターゲットにされている為です。似たような製品で価格が違うのは、見た目は同じでもこういった設計がどれだけしっかり行われているかにより、価格が変わってきます。極端に安い製品はこの寿命設計そのものがされていない事もあると思います。

ただし前述の通り、想定寿命を完全に製品設計に反映する事は容易ではありません。

壊れる設計が出来るという事は、裏を返せば壊れない設計も出来るという事であり、ソニータイマーと揶揄され、保証期間を切れたすぐ後に壊れるような設計が出来ていたソニーというのは、それだけ技術力が高かった、という事を意味するのではないかと思います。

エンジニアを目指されている方、下記も参考にどうぞ。

参考:収入アップの為の、おすすめプログラミングスクール3社を紹介します

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