カメラの機能で必要不可欠なISP(イメージシグナルプロセッサ)機能について解説していきたいと思います。その中で、本記事では、「黒レベル調整」について解説します。聞き慣れない言葉かもしれませんが、カメラの画像を決める上で重要な機能であり、現在のスマホやデジカメには必ず搭載されている機能となります。
また、本機能を説明するに当たって、そもそも黒とは何か?色とは何か?という事も含め解説していきたいと思います。
「黒」とは?
まず、「黒」とは何か、「色」とは何か?についての解説からしたいと思います。まず、色と明るさの定義について触れたいと思います。
色とは:波長である
明るさとは:波長の強度である。
いきなり何の事か良く分からないと思いますが、世の中の光は下の図のような波長をもっております。一番短い波長は「宇宙線」。長い方は「音」となり、人間が目で見える範囲はその中の380nm~780nmくらいの波長領域です。そのエリアを「可視光」といい、各波長ごとの色は下の図のようになっています。短い方が紫、青、中間が緑、長くなると赤といったように、波長ごとに色があります。
電球を買う時、白っぽい色や、赤っぽい色の物があると思いますが、それは波長が異なる為、色が変わるという事です。
では太陽光にはどのような波長が含まれているのか見てみると、下の図のようになっています。380nm~780nmの可視光にピークはありますが、それ以外の波長も多く含んでいます。つまりすべての色が混ざっているという事になります。
それでは、私たち人間が見ている「色」というのは、何でしょうか?それは、次の2つの場合があります。
- 太陽や照明が物体に当たり、反射した波長を見て、色を認識する場合
- 照明(LED)等の発光体そのものを見て、色を認識する場合
後者は、パソコンやスマホのモニター、信号機、照明等が該当しており、表現したい色を出すために、380nm~780nmの可視光を混ぜ合わせる、もしくは単一の波長を、機器が発光する事で、色を表現しています。真夜中で街灯や、太陽光が無くても、信号機の色が見えるのは、その機器自体から特定の波長をもった光を発光している為です。
一方前者の方は、例えば太陽光が交通標識の「止まれ」に当たって、白色と赤色が見える場合ですが、それは、赤色の波長を反射する塗料の部分は赤に見え、赤、青、緑の波長をまんべんなく反射する塗料の部分は白に見える。つまり、すべての波長を含む太陽光が物体に当たり、跳ね返った波長によって、見える色が決まるという事です。
「止まれ」の標識は光が無い夜中に見た場合、赤く見えません。それは、反射する光が無い為です。光が照射されて始めて、その中の一部の波長が反射され、色としてみる事が出来ます。
これまで説明したように、色とは波長である。という事ですが、では本題の「黒」とは何でしょうか。まず、自然界における黒ですが、次のように定義する事が出来ます。
自然界の黒:光を反射せず、すべての光を吸収してしまう物
このような黒色はベンタブラックと呼ばれており、このような黒です。画像編集ソフトで塗ったわけではありません。可視光を99.965%吸収するベンタブラック。ちょっと怖いです。このベンタブラックで塗装されたフェラーリが昔話題になっていますので、「ベンタブラック フェラーリ」等でググってもらうと面白いかと思います。
次にデジタルでいう黒について説明します。仮に8ビットで明るさを表すとすると、輝度は0~255の数字で表せますが、黒は次のように言えます。これは、分かりやすいかなと思います。
デジタルの世界の黒:輝度値「0」
では、カメラでいう「黒」とは何でしょうか?
カメラの黒:人が見て黒と感じる明るさ、ただし黒潰れしない輝度30~50位。
例えば同じ被写体を写した3枚の写真が下の図の様であった場合。どの色を黒と表現するか?ですが、88以上は少し明るすぎですので、50以下の明るさ位を黒としたいところですが、輝度値でいう「12」位部分は、真っ黒で模様等が全く見えません。それを「黒潰れ」というのですが、このように黒をデジタル値の「0」に近づけすぎると、人の目では凹凸や輝度の差が分からなくなってしまうという弱点があります。そこでカメラでいう黒は、もっとも黒い部分においても、30~50位の輝度を保つように作られており、黒潰れが無いように、黒が設定されています。
黒レベル調整
次に黒レベルの設定と、ISPにおける黒レベルの調整について解説します。
被写体が常に変動するカメラで、どのように「黒」を定義しているのでしょうか?
下記の記事でも説明しましたが、イメージャには、光が入らない、遮光された画素があります。それをオプティカルブラックと言います。
参考:モノづくりエンジニアの為の、CMOSイメージセンサの基本原理
イメージは下の図の通りで、総画素と有効画素の間の部分をオプティカルブラックと言います。このエリアは遮光されている為、被写体に関係なく、光が入らない領域。つまり「黒」となります。
このオプティカルブラックの輝度値をデジタルデータのどの値にするかを決める事が出来、それを黒レベルの設定と言いますが、上で説明したように、このレベルを30~50付近に設定するメーカが多いと思います。
しかし厄介な事に、ここで決めた黒レベルの値は、常に一定にはなってくれません。遮光された画素ですので、光が画素に入っていない状態です。よってその時の光の量は「0」(限りなく0に近い)です。光電変換しても光がないので電荷は限りなく0に近く。電圧も同様限りなく0に近い状態です。それを無理矢理アンプで輝度30~50に持ち上げている事になります。画素はアナログ回路ですので、必ず「ノイズ」を含み、光の量が少なくなればなるほど、信号に対するノイズ量が増えてきますので、ノイズが目立つようになります。
夜間の写真撮影で、写真にノイズが多くあらわれるのと同じ原理です。
よって高温時や、露光時間の長さ、環境温度によって、大きくこの黒のレベルがズレてしまいます。ここで黒のレベルがズレてしまうと、それに伴い、有効画素の明るさもずれてしまい、カメラで撮影した時に画面の明るさが安定せず、また黒が黒に見えない。という現象が発生します。
それを防ぐのがISPの黒レベル調整です。
ISPの黒レベル調整の機能を使う事で、常にオプティカルブラックの黒のレベルを確認し、輝度が目標値よりも上がってしまえば下げ、下がってしまった時は上げる。という事をフレーム毎に実施します。これを黒レベル調整と言います。
そうする事で、黒色が常に安定して、同じ黒になり、同時に有効画素の明るさも安定します。また、ISPの処理は下の図のように、黒レベル調整以外にも様々な機能がありますが、この黒レベルの調整はすべての処理のはじめにある場合が多く、この調整で画面の明るさを決めた後に、その明るさを基準にその他のISP処理をする場合が多い為、非常に重要な役割となります。こういった理由から、この機能そのものがISPではなく、イメージセンサの中に直接入っているのも珍しくありません。
まとめ
まとめると、
黒レベル設定:オプティカルブラックの黒色の出力値を決める事
黒レベル調整:上記決めた出力値(輝度値)を、環境や状態の変換によらず、一定に保つように調整する事
そして、カメラの黒は、黒潰れを考慮し、30~50付近に設定されている場合が多いです。 (メーカによる様々)
カメラに関する記事は下記にまとめておりますので、よろしければご覧いただければ幸いです。
参考:カメラ関連記事
ISPに関する記事は下記
参考:カメラの性能を決める、ISP(イメージシグナルプロセッサ)の機能と信号処理
参考:【ISP技術入門】カメラの HDR(ハイダイナミックレンジ)とは
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