MIPI D-PHY・C-PHY・A-PHYの違い|物理層の仕組みと使い分けを解説

MIPI CSI-2を調べていると、D-PHY、C-PHY、A-PHYという似た名前の規格が出てきます。私も改めて整理してみると、「何が違い、どこで使い分けるのか」が少し分かりにくいと感じました。本記事では、既存のMIPI・D-PHY記事を踏まえ、配線方式、クロック、転送距離、用途の違いを、カメラ開発の視点からできるだけ簡単に比較します。

MIPI D-PHY・C-PHY・A-PHYの違いをまず比較

MIPIについて調べていると、D-PHYのほかにC-PHYやA-PHYという規格も出てきます。

名前が似ているので、「D-PHYの後継がC-PHYで、さらに新しいものがA-PHYなのかな?」と思ってしまいますが、実際はそうではありません。

D-PHYとC-PHYは、主にカメラやディスプレイとSoCを接続するためのPHYです。一方、A-PHYは車載カメラなどを長いケーブルで接続することを想定しています。

まずは細かい仕組みに入る前に、3つの違いを整理してみます。

そもそもPHY(物理層)とは?

PHYとは「Physical Layer」の略で、簡単に言うとデータを実際の電気信号として配線へ流す部分です。

以前の記事で紹介したMIPI CSI-2は、カメラから画像データをどのような形式で送るかを決めています。しかし、CSI-2だけでは電圧や信号線の使い方までは決まりません。

そこで、その下にD-PHYやC-PHYなどの物理層を組み合わせます。

イメージとしては、次のような関係です。

Camera Sensor

MIPI CSI-2

D-PHY / C-PHY / A-PHY

配線・ケーブル

SoC / ECU

つまりCSI-2とD-PHYは競合する規格ではなく、担当する階層が違います。D-PHYとC-PHYはCSI-2やDSI-2の物理層として利用でき、A-PHYもProtocol Adaptation Layerを介してCSI-2を伝送できます。

ここはMIPIを理解するときに、最初に押さえておきたいポイントです。

D-PHY・C-PHY・A-PHYを比較

それでは、3種類のPHYをざっくり比較してみます。

項目D-PHYC-PHYA-PHY
主な用途カメラ・ディスプレイカメラ・ディスプレイ車載カメラ・センサー・ディスプレイ
基本的な信号方式2本1組の差動信号3本1組のTrio長距離SerDes
クロックForwarded Clockが基本。v3.5以降はEmbedded Clockにも対応Embedded ClockSerDes方式
CSI-2との組み合わせ対応対応PALを介して対応
伝送距離最大4m最大4m最大15m
特徴シンプルで広く普及少ない配線で高い転送効率長距離・高信頼性
主な採用分野スマホ、カメラ、IoTなどスマホ、高解像度カメラなどADAS、車載カメラなど

MIPI Allianceでは、D-PHYとC-PHYを最大4mまでのカメラ・ディスプレイ向けPHYとして紹介しています。一方のA-PHYは最大15mに対応したLong-Reach SerDesとして規格化されています。

こうして並べると、A-PHYだけ少し立ち位置が違うことが分かります。

D-PHYとC-PHYは、例えばスマートフォン内部のイメージセンサー → SoCのような比較的近い距離を接続する用途が中心です。

一方、A-PHYでは車両前方のカメラ → 車内のECUといった、数m離れた機器間の接続まで考えられています。

D-PHY・C-PHY・A-PHYは単純な新旧関係ではない

もう一つ注意したいのが、D-PHY、C-PHY、A-PHYは単純な世代違いではないことです。

D-PHYは2本1組の差動信号を基本とした構成で、現在もスマートフォンやカメラなどで広く使われています。

C-PHYは3本の信号線を1組の「Trio」として使い、3相シンボルエンコーディングによってデータとクロック情報を伝送します。専用のクロックレーンを必要としないところがD-PHYとの大きな違いです。

そしてA-PHYは、スマートフォン内部の配線を置き換えるための規格というより、車載用途を中心とした長距離接続用のPHYです。最大15mのケーブルで、高速データ、双方向の制御データ、さらにオプションで電力まで同じ配線上で扱えます。

そのため、

D-PHY → C-PHY → A-PHY

という進化ではなく、

「どの距離を、どの配線方式で、何を接続したいのか」によって使い分ける

と考えたほうが分かりやすいです。

次の章からは、まず最も身近なD-PHYから、具体的な信号の仕組みを見ていきます。

D-PHYとは?カメラで広く使われる基本の物理層

D-PHYは、MIPI CSI-2で最もよく使われている物理層の一つです。

スマートフォンなどでは、イメージセンサーからSoCへ大量の画像データを送る必要があります。その高速伝送を、低消費電力で実現するために使われているのがD-PHYです。

MIPI Allianceでも、D-PHYはスマートフォン、IoT、車載などのカメラ・ディスプレイ用途で広く使われるPHYとして位置付けられています。現在の最新仕様はD-PHY v3.6です。

クロックレーン+データレーンで伝送する

D-PHYの基本構成は比較的シンプルです。

従来の代表的な構成では、

  • Clock Lane:1レーン
  • Data Lane:1~複数レーン

という形で、クロックとデータを分けて伝送します。

例えば4レーン構成なら、イメージセンサーから出力された画像データを複数のData Laneへ分散して送り、Clock Laneのタイミングに合わせてSoC側で受信します。

イメージとしては次のようになります。

Image Sensor

Clock Lane ─────────→ SoC
Data Lane 0 ────────→ SoC
Data Lane 1 ────────→ SoC
Data Lane 2 ────────→ SoC
Data Lane 3 ────────→ SoC

これが、これまで一般的だったD-PHYの特徴です。

ただし、ここは少し注意が必要です。

D-PHY v3.5からは、従来のForwarded Clockに加えて、クロック情報をデータ側へ含めるEmbedded Clock Modeも追加されています。つまり、最新のD-PHYでは必ず専用Clock Laneが必要というわけではありません。

C-PHYとの比較では、このクロックの考え方も一つのポイントになります。

HSモードとLPモードを使い分ける

D-PHYでもう一つ特徴的なのが、HS(High Speed)モードとLP(Low Power)モードを使い分けることです。

大容量の画像データを送るときはHSモードを使用し、高速にデータを転送します。一方、常に高速通信を続ける必要はありません。

そこで、低速通信や待機状態ではLPモードを使い、消費電力を抑えます。

以前の記事でも実際の波形を紹介しましたが、D-PHYでは同じ信号線上に、振幅や速度の異なるHSとLPの信号が現れます。

このあたりは回路設計やオシロスコープで波形を確認するときに重要になります。

HS/LPの信号レベル、Rx/Tx規格、クロックとデータのタイミングについては、既存の**「MIPI D-PHY徹底解説」**で詳しくまとめていますので、そちらも参照してください。

MIPI D-PHY徹底解説、カメラ開発のものづくりエンジニア必見
今ではかなりメジャーとなった、カメラの通信規格、MIPI CSI-2。その中で、ハード関連のエンジニアが最も興味があり、必須である、D-PHYについて解説していきたいと思います。これからカメラ関連の開発を実施する予定の方、またはどんな規格なのか詳しくは知らないという方、必見です。

D-PHYが向いている用途

D-PHYは、もともとスマートフォンのカメラやディスプレイなど、機器内部の高速接続で広く使われてきました。

現在では用途がさらに広がり、MIPI Allianceではスマートフォンのほか、ドローン、監視カメラ、ロボット、IoT、車載カメラなども用途として挙げています。また、現在の仕様では最大4mまでの接続も想定されています。

特にカメラ開発では、

イメージセンサー → CSI-2 → D-PHY → SoC

という構成を目にすることが多いと思います。

では、D-PHYがこれだけ広く使われているのに、なぜC-PHYという別のPHYが必要なのでしょうか。

次の章では、D-PHYとは信号の送り方が大きく異なるC-PHYについて見ていきます。

C-PHYとは?D-PHYとの一番大きな違いは3本の信号線

C-PHYもD-PHYと同じように、MIPI CSI-2やDSI-2で利用できる物理層です。

では、すでにD-PHYがあるのに、なぜC-PHYという別の規格が必要なのでしょうか。

一番分かりやすい違いは信号線の使い方です。

D-PHYが基本的に2本1組の差動信号を使うのに対して、C-PHYでは3本の信号線を1組としてデータを伝送します。

この3本1組を、MIPIでは「Trio(トリオ)」と呼んでいます。

D-PHYの「2本1組」とC-PHYの「3本1組」の違い

D-PHYでは、2本の信号線の電圧差を利用して1レーンのデータを伝送します。

従来の代表的なD-PHY構成なら、これに専用のClock Laneが加わります。

例えば、

D-PHY

  • Clock Lane:2本
  • Data Lane 0:2本
  • Data Lane 1:2本

という構成なら、合計6本の信号線を使います。

これに対してC-PHYでは、

C-PHY

  • Trio 0:3本
  • Trio 1:3本

となり、同じ6本でも2組のTrioとして使用します。

ただし、C-PHYは単純に「3本のうち1本がクロック、残り2本がデータ」という仕組みではありません。

3本の信号線の電圧状態を組み合わせた3相シンボルエンコーディングによって情報を表現します。

ここがD-PHYとの大きな違いです。

C-PHYには専用のクロックレーンがない

C-PHYのもう一つ大きな特徴が、専用のClock Laneを必要としないことです。

C-PHYでは各Trioの信号にクロック情報が含まれる「Embedded Clock」を採用しています。

つまり、

D-PHY(従来方式)

Data + Data + Clock

に対して、

C-PHY

Data+Clock情報を含んだTrio

という考え方になります。

最初に見ると、D-PHYより3本のC-PHYのほうが配線が多いようにも感じます。

しかし、C-PHYには専用Clock Laneがありません。さらに3本の電圧状態を使って複数のビット情報を1つのシンボルとして伝送するため、同じ信号線数でも効率よくデータを送れるのが特徴です。

MIPI Allianceでは、C-PHYを「配線数を抑えながら、高い性能と低消費電力を実現するPHY」と位置付けています。

なぜC-PHYを使うのか

スマートフォンのカメラは高画素化し、さらに高フレームレートやHDRなども使われるようになっています。

そうなると、イメージセンサーからSoCへ送るデータ量も増えていきます。

そこで重要になるのが、限られた端子数や配線スペースで、どれだけ効率よくデータを送れるかです。

C-PHYには、

  • 専用Clock Laneが不要
  • 配線あたりの転送効率を高めやすい
  • 信号の切り替え回数を抑えられる
  • EMI(電磁ノイズ)を抑えやすい
  • D-PHYと同じ端子を共有するDual-Mode構成も可能

といった特徴があります。

特にスマートフォンでは、基板上の配線やSoCの端子を無制限に増やすことはできません。

その中で高解像度の画像データを送りたい場合、C-PHYの「少ない配線で効率よく送る」という考え方が効いてきます。

現在のC-PHY v3.1では、従来の6-wirestate方式に加えて18-wirestate方式も利用でき、さらに高いデータ転送効率へ発展しています。

ここまでを見ると、D-PHYよりC-PHYのほうが優れているようにも感じます。

ただし、実際にはD-PHYにもシンプルな構成や広い普及実績といったメリットがあります。そのため、C-PHYはD-PHYの単純な後継ではなく、配線効率や高帯域が必要な場合に選択できる別方式のPHYと考えるのが分かりやすいと思います。

そして、次に紹介するA-PHYは、この2つとはさらに目的が違います。

D-PHYやC-PHYが主に機器内部の接続を得意としているのに対し、A-PHYは車載カメラのような長距離伝送を想定しています。

A-PHYとは?車載カメラ向けの長距離MIPI

ここまで紹介したD-PHYとC-PHYは、スマートフォンやカメラなど、比較的近い距離にあるデバイス同士の接続を得意としています。

では、車の前方にあるカメラと、車内に設置されたECUを接続したい場合はどうでしょうか。

車載カメラでは数m以上の配線が必要になることもあり、さらにモーターやインバーターなどによる電気的なノイズも考える必要があります。

そこで、車載用途を中心に長距離伝送用として規格化されたのがMIPI A-PHYです。

A-PHYは、D-PHYやC-PHYを単純に長距離化したものではありません。

長いケーブルで高速データを安定して送るためのSerDes(Serializer / Deserializer)方式のPHYとして設計されています。 citeturn963342search1

最大15mの長距離伝送に対応する

A-PHYの大きな特徴は、最大15mの長距離伝送に対応していることです。

例えば車載カメラなら、

フロントカメラ

A-PHY

数mのケーブル

ECU / SoC

という構成が考えられます。

D-PHYやC-PHYでは、イメージセンサーとSoCを比較的短い距離で接続する使い方が中心でした。

一方A-PHYでは、車両の前方、後方、左右に配置されたカメラやセンサーと、車内のECUを接続することを想定しています。

MIPI Allianceでは、ADASや自動運転、周辺監視カメラ、車載ディスプレイなどを主な用途として挙げています。

さらに車内は、家庭用機器とは比べものにならないほど厳しい電磁ノイズ環境です。

A-PHYではPHYレイヤーで再送処理を行う仕組みなどを取り入れ、高いEMC耐性と信頼性を確保しています。

つまりA-PHYは、単純に「信号を遠くまで届かせる」のではなく、車載環境でも映像データを安定して届けることまで考えたPHYというわけです。

カメラとECUを1本のケーブルでつなぐ

A-PHYでもう一つ特徴的なのが、1本の物理配線上で複数の通信を扱えることです。

基本的には、

  • カメラ → ECU:高速データ
  • ECU → カメラ:制御データ
  • 必要に応じて電力供給

を同じ配線上で扱えます。

例えばカメラからECUへは、大容量の映像データを高速で送ります。

一方、ECUからカメラへ送る設定変更や制御情報は、それほど大きな帯域を必要としません。

そのためA-PHYでは、下り側の高速通信と上り側の制御通信で通信速度が異なる非対称リンクを採用しています。

現在のA-PHY v2.0では、高速側は1本のケーブルで最大32Gbps、制御などに使う反対方向の通信は最大1.6Gbpsまで拡張されています。

さらにPower Over A-PHYを利用すれば、通信だけでなく電力も同じ配線で供給できます。

車載カメラごとに映像線、制御線、電源線を別々に引く必要がなくなれば、配線の本数や重量を減らせます。

車では数十個のセンサーやカメラを搭載することもあるため、この違いはかなり大きくなります。

CSI-2とA-PHYはどうつながる?

ここで少し疑問になるのが、**「A-PHYを使う場合、CSI-2は使わなくなるのか?」**という点です。

答えは、CSI-2もそのまま利用できます。

CSI-2は、カメラから送る画像データの形式やパケット構造などを定める上位側の規格です。

一方、A-PHYはそのデータを実際のケーブルで伝送する物理層です。

A-PHYではPAL(Protocol Adaptation Layer)と呼ばれる適応層を使うことで、CSI-2をA-PHY上で伝送できます。MIPI公式でも、CSI-2はD-PHY/C-PHYだけでなく、A-PHYを使った最大15mの長距離伝送に対応すると説明されています。

イメージとしては、

車載カメラ

CSI-2

PAL

A-PHY

長距離ケーブル

A-PHY

PAL

CSI-2

ECU / SoC

という関係です。

つまり、

CSI-2 = 何を送るか
A-PHY = どうやって遠くまで送るか

と考えると分かりやすいと思います。

D-PHYやC-PHYが主に機器内部や比較的短い接続を得意としているのに対して、A-PHYは車載カメラとECUのような長距離接続を得意としています。

同じMIPIのPHYでも、A-PHYだけはかなり用途が違うことが分かります。

MIPIに関する内容は下記もあります

MIPI D-PHY徹底解説、カメラ開発のものづくりエンジニア必見
今ではかなりメジャーとなった、カメラの通信規格、MIPI CSI-2。その中で、ハード関連のエンジニアが最も興味があり、必須である、D-PHYについて解説していきたいと思います。これからカメラ関連の開発を実施する予定の方、またはどんな規格なのか詳しくは知らないという方、必見です。
MIPI CSI-2 の概要、カメラ開発のものづくりエンジニア必見。
カメラの通信規格、MIPI CSI-2について簡単にまとめました。これからカメラ関連の開発を実施する予定の、ものづくりエンジニアの方、MIPIという言葉だけは知っているけど、どんな規格なのか詳しくは知らない。という方、そんな方向けに、出来るだけ簡単にMIPI CSI-2の論理層、物理層の解説をしていきたいと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました